性差医療という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。性差医療は、男女の違いは生殖系の臓器だけでなく男女共通の臓器やシステムにも性差が存在すること、この違いを認識することで、男女ともに医療の精度と質を向上させることができるという概念を取り入れている。性差医学はその差異を研究する学問である。
性差医療は、(1)男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態(例えば痛風は男>>女、膠原病は女>>男と有病率が異なる)、(2)発症率はほぼ同じでも男女間で臨床的に差を見る疾患(心筋梗塞など)、(3)生理的・生物学的解明が男性または女性で遅れている疾患などに関する研究を進め、その結果を疾病の診断・治療・予防へ反映することを目的とした医療である (1,2)。
かつては男性のみが参加していた薬剤治験
米国での性差医療の始まりはわが国より古い。1960~70年代にかけてサリドマイド、DES(合成女性ホルモン剤)など妊婦の服用薬による出生児への薬害が相次ぎ、1977年に米国食品・医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)は妊娠可能性がある女性の薬剤治験参加禁止を通達した。以降十数年にわたり臨床研究から女性が除外され、男性をモデルに計画・実施された臨床研究データが女性にそのまま当てはめられてきた。このことは、様々な影響を及ぼし得るが、具体的な事例を紹介する。
アスピリンは、男性では初回の心筋梗塞のリスクを減少させるが、脳卒中のリスクにはほとんど影響しないことが、無作為化試験で示されているが、女性では同様のデータはほとんどなかった。そこで、女性におけるアスピリンの効果を臨床試験で調べたところ、アスピリンは女性において脳卒中のリスクを低下させたが、心筋梗塞のリスク、心血管系の原因による死亡のリスクに対しては効果がないことがわかった。このように、同じ薬であっても男女で臨床試験の結果が全く異なることが示されたのである(3)。……