2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻から、まもなく1年が経とうとしている。多くの専門家は、この戦争を「冷戦終結以来、核兵器の使用が最も懸念される戦争」と見ているが、幸いなことに本稿執筆時点でロシアによる核使用は行なわれていない。
2022年9月に行なわれたハルキウ反攻において、ロシア軍は歴史的な大敗北を喫したにもかかわらず、ウラジーミル・プーチン大統領は戦局を打開するために核使用に踏み切ることはなかった。この決断の背景には様々な要因が考えられるが、米国による(核)報復の可能性と、その後のさらなるエスカレーションのリスクがプーチンの計算に少なくない影響を与えたことは間違いない。
一方、段階的にウクライナに対する軍事支援のレベルを上げつつある西側も、当初はHIMARS(高機動多連装ロケットシステム)やM1エイブラムス(米製)、レオパルト2(独製)のような主力戦車など、ロシア軍に深刻な打撃を与えうる兵器の提供には及び腰であった。また、開戦以前からジョー・バイデン大統領が明言していたように、米・NATO(北大西洋条約機構)の直接的な軍事介入は依然として行なわれていない。つまり、懸念の度合いに波はあれど、米国をはじめとする西側諸国にも、核エスカレーションのリスクが戦争初期段階での大型武器供与や直接的な軍事介入を思いとどまらせる形で働いている。
西側とロシア双方にある程度の自制を促しているもの――それこそが、本稿が取り上げる大国間の戦略的な核バランスである。……