<span>アベノミクスは成功か、失敗か――ノーベル経済学賞受賞者「ポール・クルーグマン」が指摘する成果と限界</span>
安倍晋三元総理

1990年代後半から日本経済を「流動性の罠」の代表例として論じてきたのはノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏だ。「アベノミクスは成功だったのか、失敗だったのか」――。アベノミクスを“クルーグマン的処方箋”と見る声もあるなか、その成果と限界をどう評価するのか。(取材・構成 大野和基)

日本は「流動性の罠」でも豊かさを維持した

――1990年代後半、あなたは日本経済を「流動性の罠」の代表例として論じました。あれから約30年、日本経済が当時の分析どおりに推移した部分と、予想を裏切った部分、それぞれをどう見ていますか。

 私が1990年代後半の日本を論じた際に強調したかったのは、実に単純なことでした。日本が抱えていた問題は、成長力そのものを失ったことでも、日本人労働者の生産性が低下したことでもありません。また、銀行危機だけですべてを説明できるものでもなかったのです。名目金利がほぼゼロにまで低下し、インフレが消滅、その結果、金融政策が従来の効果を大きく失ってしまったことでした。

 当時、多くの経済学者は流動性の罠を、教科書に載ってはいても、先進国では起こりそうもない、いわば理論上の現象だと考えていました。しかし、日本はそれが現実のものであることを示したのです。実際、2008年以降の世界金融危機の経験は、日本から学んだことの多くを裏付けました。米国、欧州、そしてある程度という意味で英国も、同様の問題に直面しました。突然、世界中の経済学者がゼロ金利政策、量的緩和、フォワードガイダンス、長期停滞といった問題について議論を始めました。これらは日本が10年以上も取り組んできた問題です。日本は例外ではなかった。単に他国より先を行っていただけなのです。

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