世界のAI(人工知能)開発をリードするオープンAIとアンソロピックがともに上場準備を本格化しました。オープンAIは早ければ年内にも上場申請に動くと見られ、市場は12日にIPO(新規株式公開)を果たしたスペースXに続く熱狂を期待します。
オープンAIもアンソロピックも、上場や資金調達を通じて1兆ドルを超える評価額が想定されます。この巨大な富は、いったい誰のものなのか。「株主のものだ」と簡単に言い切れないのは、AIは「データによって学習する」ことが不可欠だからです。
「人工知能は、何もないところから突然生まれたわけではない。生成AIツールが使用するデータや言語は、サム・アルトマン[オープンAIのCEO]の頭の中やイーロン・マスク[スペースXのCEO]の想像力から突然湧き出たものではない」
米国政治で「進歩派」あるいは「左派ポピュリスト」の代表的存在として知られるバーニー・サンダース上院議員は最近、このように述べた政策提言を発表しました(詳細は後述)。AIは元になるデータがあってこそ訓練され、そのデータは米国社会全体の知識や創作物を土台にしている。ゆえに、AIが生んだ富の恩恵は社会にシェアされるべきである。サンダース氏はそう主張し、AI企業の株式を政府が取得し、そこからの利益を国民全体に還元せよと唱えます。最低賃金引き上げや大学授業料無償化、富裕層・大企業への増税などを掲げてきた人物らしい発想とも言えますが、トランプ政権の進める重要企業の株式取得と同じことを、米国政治の中でも最も左派性の強い政治家が言っているのが興味深いところです。
そしてもうひとつ特筆すべきは、そもそも政府によるAI企業の株式取得は、オープンAIのサム・アルトマンCEOが熱心に働きかけてきたということです。その理由は昨日公開の安田佐和子氏《「今週のトランプ」ラウンドアップ》に詳しいので省きますが、ポスト・グローバリズム時代を特徴づける国家資本主義の潮流に、AIの分野で新たな変化が起きていることに注目したいと思います。
サンダース氏は上記の内容を法案にして提出する考えを示しています。この法案が成立する可能性は低いのですが、米国では「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」紙など大手メディアや作家集団などがAIの訓練にデータを無断利用されたとして提訴しており、AIが生み出す富の“帰属先”をめぐる議論は今後も続くことでしょう。
今週はこのAIをめぐる議論のほか、米国とイランの戦闘終結に向けた合意が成立すればなおさら重要ファクターになってくるイスラエル・ネタニヤフ政権の国内事情、トランプ政権が台湾を見捨てるリスク、グーグルのスンダー・ピチャイCEOが「おそらく5年前のAIのいた地点にある」と述べたという量子コンピューティングの現在など、全7本をピックアップしました。
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For a Second Time, Trump Muses About Americans Sharing in A.I. Wealth【Tripp Mickle, Ana Swanson, Cecilia Kang/New York Times/6月10日付】
「AIのおかげでシリコン・バレーは新たな富の創出の波を迎えようとしているようだ。しかし、このブームには大きな弊害が伴う可能性がある。業界の多くの人々は、高給のソフトウェアプログラマーからバックオフィスの会計担当者に至るまで、ホワイトカラーの雇用が失われることを懸念している」
「大量解雇のリスクを受けてAI企業の経営陣は、こうした雇用喪失の責任を負う企業の負担を軽減するため、一連の異例の案を打ち出した。そのひとつが、一般市民にも富を分配できるよう、自社の株式をアメリカ国民に付与するという案だ」
このような案についてドナルド・トランプ大統領も前向きである(ように見える)ことを、NYT紙が伝えている。「トランプが再び発言、AIの生み出す富をアメリカ国民に共有することについて」(6月10日付。筆者はシリコン・バレー担当記者のトリップ・ミクル、国際経済担当記者のアナ・スワンソン、テクノロジー・規制担当記者のセシリア・カン)は、生成AI「ChatGPT」を開発する米オープンAIが先鞭をつけた動きの経緯を伝えている。