連載|Foresight

Vol. 188

「インフレ化」する金与正談話、言葉とは裏腹に韓国を無視できない事情(2026年10月4日~10月10日)

2026年10月13日


<span>「インフレ化」する金与正談話、言葉とは裏腹に韓国を無視できない事情(2026年10月4日~10月10日)</span>
3日の金与正談話では、同日未明に実施された中距離戦略ミサイルの発射訓練に言及した(朝鮮中央通信HPより)

金与正による談話の発表が止まらない。韓国が国連の承認を得て北朝鮮への医療支援を申し出たことを「変種の政治的挑発」「重大な主権侵害行為」などと断じ、「人間のクズどもを無視する」と罵った。一方で、最近の対韓メッセージの増加は、韓国の軍事力を看過できない実状と、米朝関係が変化する可能性をも視野に入れたものと言える。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

地雷爆発事件は「茶番」との主張を繰り返す

 10月4日付第5面には、毎年恒例の「開天節行事の開催」と題する記事が掲載された。開天節(10月3日)は、朝鮮民族の始祖とされる「檀君(タングン)」が、紀元前2333年に古朝鮮を建国したとされる伝説に由来する。『労働新聞』は、平壌(ピョンヤン)郊外に位置する檀君陵の前での記念行事について毎年報じてきた。今回は、最高人民会議常任委員会副委員長、内閣副総理、歴史遺産保護局と関係部門の幹部らのほか、「海外同胞」が参加した。掲載写真からは小規模イベントである様子が見て取れ、朝鮮半島の伝統を重んじる在外コリアン向けの意味合いもあるものと考えられる。

 歴史遺産保護局長が記念報告を行い、「朝鮮の始祖である檀君を取り戻し、檀君陵を立派に改修して5000年の民族史を輝かせてくださった偉大な首領金日成(キム・イルソン)同志と偉大な領導者金正日(キム・ジョンイル)同志の不滅の業績を熱烈に称賛した」という。

 6日、北朝鮮外務省声明「われわれは最も敵対的な国家に向けた主権行使にさらに断固で明白であろう」が発表された。『労働新聞』には非掲載であった。先般の地雷爆発事件は「ソウルが企画して演出した自作の茶番劇」であり、「必ず代償を払わせるべき深刻な主権侵害行為」であるとの主張が繰り返された。北朝鮮は「自国の領土内で軍事主権を行使する問題をいかなる場合にも敵対国と論議しないであろうし、協商の方法ではなく徹底した力の行使をもって主権領域を守る」とした。韓国政府が北朝鮮に対して執拗に対話を呼びかけていることに対して、それを拒絶する姿勢を再表明するものであった。

「朝韓関係を回復させたい考えがあるなら…」の含意は?

 金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央委員会総務部長による談話の発表が止まらない。8日付の談話は、北朝鮮に向けた医療支援のための「制裁免除要請書」を5月に韓国政府が国連安保理の制裁委員会に提出し承認されたことを、10月7日に発表したことに対して反発するものであった。韓国側が北朝鮮の医薬品不足などを指摘して、医療サービスの改善に寄与すると申し出ているのは、「冒涜」であり「変種の政治的挑発」「重大な主権侵害行為」だと断じた。

 上から目線に対する韓国への不快感表明であり、「(地雷爆破事件という)自作自演劇で想定の興行収入が期待できなくなると、韓国の連中が突然持ち出したのがまさに『医療設備支援計画』という茶番劇の第2部である」と茶化し、「『人道』の看板を掲げて『信頼醸成』を唱えはじめた底意についてわれわれは知って余りある」とした。

 現状において、韓国が医療機器を北朝鮮に「送り込む方法もないということを知っているはず」にもかかわらず、「『善意の態度』とそれを拒否するわれわれの『相反する態度』を比較させて、何でも得ようとする陰険な政治的見積もり」だとしたのである。韓国政府の態度は、「すべてが一方的な判断、一方的な決定、一方的な発表」であり、「本当に改造不能な生まれつきの馬鹿ではないか」と口汚く評した。

 ここで注目すべきは、「朝韓関係を回復させたい考えがあるなら、一つ一つの言動に相手の感情を意識し、最大限の尊重と配慮、真心から見せるべき」とのくだりである。これまでの金与正談話に比べると、南北対話を全面的に遮断するというよりは、韓国側が大幅に態度を変えるのであれば再交渉の余地があることを示唆したようにも捉えうる。

 ただし、この表現の後に、「韓国とは永遠に向かい合う理由がなく、逆戻りできない歴史はすでに久しい前に経過した」「朝韓関係の敵対的な性格はけっして変わらない」とも言っているため、韓国政府にとって対話再開の前にきわめて高いハードルがあることに変わりはない。今後米朝関係が進展する可能性を視野に入れれば、大幅な進捗があった場合にはドナルド・トランプ政権が様々な費用負担を韓国に要求することも考えられる。北朝鮮側はトランプ大統領の一方的かつ大幅な譲歩を含めた、多様なシナリオを計算しているように映る。

 翌9日には、金与正が朝鮮中央通信を通じて「朝鮮民主主義人民共和国政府の評価と立場」を発表した。党中央委員会部長の肩書きで「政府」の立場を発表するという変則的な形である。文末において、「私は国家首班の委任によって、そして朝鮮人民の総意によって、われわれが今後いっそう明確に韓国の人間のクズどもを無視することを闡明する」とされたことから、前日の談話よりも重い位置付けだと言える。

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