※お知らせ:「Weekly北朝鮮『労働新聞』」は、次回からリニューアルして「Monthly北朝鮮『労働新聞』」に変わります。原則として毎月上旬に一回の更新となります。
突然の訪問に最大限の厚遇を示した中国
10月24日、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が予告なしに訪中した。日帰り訪問にとどまり、習近平国家主席との首脳会談も行われないという異例ぶりであった。『労働新聞』は訪中を伝える記事の冒頭において「中国人民志願軍の朝鮮戦線参戦76周年に際して」、遼寧省丹東市にある「抗米援朝記念館」を訪問したと銘打った。
しかし、1993年から現在の位置にあるこの記念館を北朝鮮の最高指導者が訪れたのは今回が初めてであるばかりか、朝鮮人民志願軍の参戦は金正恩が訪中した10月24日ではなく、25日である。また、参戦を記念することが主目的であれば外相レベルを派遣すれば十分に事足りるはずである。中国共産党が重要会議「五中全会(中央委員会第5回全体会議)」を翌々日に控える超繁忙期に、金正恩はなぜ訪中したのであろうか。
同行者は、趙甬元(チョ・ヨンウォン)朝鮮労働党中央委員会書記、崔善姫(チェ・ソニ)外相、李日煥(リ・イルファン)党中央委員会書記、金成男(キム・ソンナム)党中央委員会書記、金徳訓(キム・ドックン)内閣第1副総理、金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会総務部長、金才龍(キム・ジェリョン)党中央委員会第1副部長、李龍海(リ・リョンナム)駐中北朝鮮大使らであった。中国人民志願軍参戦の記念日に際して訪問したとされるわりには幹部軍人が一人も入っておらず、完全に外交モードであった。なお、金正恩の娘の同行は確認されていない。
丹東で金正恩を出迎えたのは、中国共産党序列4位で政治局常務委員会委員の王滬寧・人民政治協商会議全国委員会主席を筆頭に、王毅・外交部長、劉海星・党中央委員会対外連絡部長、馬朝旭・外交部常務副部長らである。習近平は王滬寧のほか主要な対外政策幹部を丹東にまで派遣したことから、本来であればあり得ないタイミングで来訪した金正恩に対して最大限の厚遇をしたと評価できる。
開通したばかりの鴨緑江橋を通っての訪中
金正恩は、抗米援朝記念塔に花籠を贈呈し、「わが人民は中国人民とともに戦った栄光の年代を永遠に記憶するであろうし、わが革命を血によって援けてくれた中国人民に対する永遠の感謝を代を継いで伝えていく」と述べた。また、記念館の参観を記念して「写真文献記念板」を贈呈した。「偉大な歴史のシーンの中で平和を守った正義の魂と精神が脈打っている。両国の境を一つの地脈につないだ中国人民志願軍烈士の足跡を敬虔に追憶し、永遠なる感謝と敬意をささげる」という、金正恩の直筆メッセージを金日成(キム・イルソン)主席の写真の横に刻んだものである。
金正恩は王滬寧と会談し、「血によって結ばれた朝中親善の貴重さ」に言及しながら、習近平への挨拶を伝えた。ただし、この会談において突っ込んだ話があったかどうか判断するのは難しい。少なくとも『労働新聞』では通り一遍のやりとりだけが報じられ、内容に新奇性はない。また、金正恩が機微な話をするときには「人払い」をして、通訳だけを配する「テタテ」の会談にするのが常だが、今回はそうではなかった。
一方、習近平の「特別な指示」によって設けられたという歓迎宴の様子は全く描写されず、映像も公開されていないことから、そこで機微な話題が出た可能性は排除できない。
今回の訪中に際して、金正恩は10月15日に開通したばかりの朝中鴨緑江(アムノッカン)橋を利用した。『労働新聞』の記事はそのことに重点を置かず、あくまでも中国の朝鮮戦争参戦を記念した訪中であり、「最も真正な血縁的紐帯と真の同志的関係によって強固な朝中親善団結の不変性と不敗性」を確認したことを誇示した。一方、朝鮮中央テレビの映像からは、橋の途中まで中国側の見送りを受けた金正恩が満面の笑みでいることから、この橋を渡ること自体が訪中の主たる目的であったと解釈することも不可能ではない。実際に、両国が容易に日帰りできる隣人であることを内外に示すことはできた。
しかし、それは習近平が多忙な時期であることを承知しながら訪中した理由付けとしては弱い。新しい橋を利用すること自体が重要だとしたら、溺愛している娘を帯同したのではなかろうか。安全上の懸念もあり、これまで金正恩が意図なく外遊したことは一度もない。中朝関係の強化が目的ならば、習近平との首脳会談こそが重要である。