政治

「認知戦」の将来(上):米中露の違いと発達の歴史

2022年7月30日

新しい戦争の形態として、近年注目を集める「認知戦」。米中露はこの20年でそれぞれこの概念を発展させてきたが、中国は戦争の特性を根本的に変化させ得るものとして重視する一方で、米国は数ある作戦の一つと捉えるなど、その位置付けには違いもある。(こちらの中編へ続きます)

 ソーシャルメディア、人工知能(AI)、神経科学などの発達に伴い、人間の脳の「認知」に影響を与え、相手の「意志」に影響を及ぼすことにより、戦略的に有利な環境を作り、あるいは戦うことなく相手を屈服させる「認知戦」と呼ばれる戦い方が注目されている。本年4月26日に自民党が発表した「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」においても「認知戦」や「認知領域」という用語が用いられるなど、戦争における人間の「認知」の領域は、各国において注目を集めている。中でも中国、ロシア、米国において急速な発展が見られる。

 本稿では、中国、ロシア及び米国における「認知戦」の考え方について分析するとともに、ロシア・ウクライナ戦争における「認知戦」の教訓を導き出し、その将来について分析する1

古くて新しい概念

 まず、中国、ロシア、米国が「認知戦」をどのように考えており、それがどのように発展してきたかについて分析を行う。中国は2019年に「智能化戦争」2という新しい戦略を発表したが、この戦略の焦点は人間の「認知」であるとされている3。ロシアの「ハイブリッド戦争」4も、非軍事手段と軍事力を併用して戦う思想であり、非軍事手段の中には「認知戦」に相当する考え方が含まれる。米軍が2012年に発表した「情報作戦」5も、物理及び情報の次元に加え、人間の「認知」の次元に影響を及ぼすことを目的としている。

 このように、近年、米中露の各国は「認知戦」の概念を急速に発達させている。ただし、こうした考え方は決して新しいものではない。古来、戦争とは当事者双方の「意志」の戦いであり、人間の「認知」の領域において行われるものだった。カール・フォン・クラウゼヴィッツは、戦争の目的は「敵を強要してわが方の意志に従わしめるにある」と述べている6。孫子は、武力に訴えることなく敵軍を降伏させ、「戦わずして勝つこと」の重要性を述べ7、また戦争は相手を騙す行為(「兵は詭道なり。」)と述べている8。そして、ツキュディデスは「恐怖」、「名誉」、「利益」という戦争の三要素を描き出した9。「ツキュディデス、孫子、そしてクラウゼヴィッツが語っていなければ、それはおそらく語る価値のないもの」と述べたのは20世紀を代表する戦略家コリン・グレイであるが10、人間の「意志」や「認知」は、ツキュディデス、孫子そしてクラウゼヴィッツの戦争理論のいずれにおいても中心的な位置を占めている。……

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