政治

“使える”セキュリティ・クリアランス法制のために積み残されている課題(上)

2024年2月18日

「セキュリティ・クリアランス(機微情報の取扱資格)」制度の導入に必要な「重要経済安保情報の保護・活用法案」(仮称)が、近く国会に提出される。経済安全保障上の機微情報を扱う人の適格性を国が認定する同制度をめぐっては、人権・プライバシーの問題が多くの関心を集めるが、日本企業が国際展開の現場で機微情報に関わるためのルール作りという本来の狙いは十分に達成できるのだろうか。

 岸田文雄総理は、本年1月30日の経済安全保障推進会議において、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度に関する法案の通常国会提出に向けた準備を加速するよう高市早苗経済安全保障担当大臣に指示を行った。これは、それに先立って、本制度に関する有識者会議において議論の「最終とりまとめ」が提出されたことを受けたものである。筆者は、有識者会議での議論が始まった2023年2月に、所属する地経学研究所でコメンタリーを発表し、当該制度に関する誤解を解きつつ論点整理を試みた。しかし、制度そのものの複雑性・専門性が高いゆえに、当時も存在していた誤解に基づく議論は、現在もまだ残っている。また、有識者会議の最終取りまとめで示された法制化の方向性においても、当初論じられていたニーズを本当に手当てできるのか課題が残る箇所がある。

 そこで本稿では、改めてセキュリティ・クリアランス法制に関する論点を整理するとともに、有識者会議による最終取りまとめにおいて残された課題を特定し、今後の議論の具体化に貢献したい。

セキュリティ・クリアランス法制は防衛産業と基本的には関係ない

 セキュリティ・クリアランス法制に関する議論で頻出する誤解が、同制度が存在しなかった日本でこれが初めて法制化されることで、同盟国等との防衛装備協力・防衛産業協力が進展するというものだ。これは特に、海外のシンクタンクにおける議論や報道で良く見られるものであり、なかなか訂正されない。セキュリティ・クリアランスとは、政府が秘密情報として指定したものが適切に秘匿されるようにするため、それを取り扱う者や施設の資格を審査する制度である。秘密情報を含む国際共同研究や海外政府の調達案件に日本企業が参加するためには、セキュリティ・クリアランスが要求される事例があり、それなしでは企業の円滑な国際展開に支障が生じるとの問題意識に基づき、議論が進められてきた。

 しかしながら、最終取りまとめにも明示的に記載されているとおり、日本においては従来、特定秘密保護法によりセキュリティ・クリアランス制度が規定されてきた。機微な防衛、外交、テロ等の情報を特定秘密として指定した上で、民間の適合事業者を含め、政府による調査等を経て資格要件を満たした者にのみその取扱いを認める制度である。防衛装備品に関してはこのほかに、自衛隊法に基づく防衛省秘(自衛隊法上罰則規定のある自衛隊員のみならず、2023年に成立した防衛生産基盤強化法により、契約関係にある事業者の従業者(民間人)への罰則も法定(装備品等秘密))や、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法に基づく特別防衛秘密(米国製防衛装備品の場合)に指定された情報を取り扱う場合にも、企業の従業者がセキュリティ・クリアランスを取得する必要があるとされる。

 一方、今回の法整備の対象は経済安全保障分野に関する情報であり、「国家及び国民の安全を支える我が国の経済的な基盤の保護に関する情報」を対象とすることが念頭に置かれている。つまり、特定秘密保護法等の適用分野である防衛、外交等の情報に限られていたセキュリティ・クリアランス制度を、経済安全保障の分野に拡げることが目的だ。したがって、「セキュリティ・クリアランス制度はこれまで日本に存在しなかった」との言説は誤りである。また、国際共同開発など防衛装備品に関する協力に従事する民間人にとっては、今回の法整備により直接何かが変わるわけではない。

新法制の制度設計

 それでは、今回の法整備でセキュリティ・クリアランスによって担保された秘密情報(CI)の対象となる分野は具体的に何であるのか。最終取りまとめでは、「国家及び国民の安全を支える我が国の経済的な基盤の保護に関する情報」に当たる例として、「サイバー関連情報(サイバー脅威・対策等に関する情報)」、「規制制度関連情報(審査等に係る 検討・分析に関する情報)」、「調査・分析・研究開発関連情報(産業・技術戦略、サプライチェーン上の脆弱性等に関する情報)」及び「国際協力関連情報(国際的な共同研究開発に関する情報)」が挙げられる。……

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