経済・ビジネス

深まる若手社員のAI依存 経営者管理職はどう対峙すべきか

2026年5月22日


<span>深まる若手社員のAI依存 経営者管理職はどう対峙すべきか</span>
受け入れる側が問い直すべきこと(daily_creativity/Shutterstock.com)

 ChatGPTをはじめとするAIツールが職場に浸透するなか、若手社員のAI活用をめぐる世代間の摩擦が生まれている。「AIを使って仕事をするのは当たり前」と考える若者と、「仕事の基礎もできていないのにAIに頼るな」と釘を刺す上の世代。『Z世代化する社会』(東洋経済新報社)などの著作がある経営学者の舟津昌平氏は、「その対立構図自体に問題がある」と指摘する。前編の「お客様化」論に続き、AI時代の職場における本質的な課題について聞いた。

AI時代に若者が対峙する試練

AIをめぐる議論も、若者のお客様化と同じ構造を持っています。

学生の間でChatGPTを使うこと自体への抵抗感はかなり薄れています。ただ、AIの仕組みや性質まで理解して使っている人が多いかというと、そこはかなり怪しい。

今のLLM(大規模言語モデル)は、ネット上にある膨大な情報を集約し、もっともらしい答えを生成する帰納的な仕組みで動いています。ChatGPTがここまで普及したのは、厳密な演繹的思考をある程度捨て、「それっぽさ」と実用性を優先したからです。

重要なのは、元となる情報が誤っていた場合、現状のAIはその誤りを本質的に是正できないという点です。例えば「Z世代とはどんな人か」と尋ねると、「環境意識が高い」といった特徴がよく挙げられます。しかし厳密なデータを見ると、他世代と比べて明確にそう言える根拠は乏しいことが多い。それでもそうした説明が出てくるのは、単純にそのような記事がネット上に多く存在しているからです。学術論文や専門的知見を網羅的にカバーしているわけでもないため、出てくる情報には構造的な限界があります。

私の同世代の人々は、「大人になってからAIに出会えてよかった」とよく言っています。AIのない世界で作法をいったん身につけた上で、ツールとして向き合えるからです。その点で言えば、今の若者は未熟な段階でAIとどう向き合うかという新しい試練に直面していると言えます。

その状況をさらに複雑にしているのが、大人側の振る舞いです。大企業でも「AI役員を入れる」といったAIを過信しているともいえる動きがありますが、本気で精査して導入しているというより、目立つこと、宣伝効果を優先してやっているケースが多いように見受けられます。それでもそうした情報が流通する以上、若者がAIの信頼性や限界を疑う視点を育てにくい環境を大人自身が作ってしまっています。この点は率直に認める必要があると思います。

AIを当たり前のように使う若手社員

それでは、現場でAIを当たり前のように使う若手社員に、ベテランや管理職はどう向き合えばいいのか。

答えはシンプルで、若手社員ともっと仕事そのものに関して話すことに尽きると思います。職場での若者と上司の会話に関する議論を参照すると、本質的な仕事の議論が少なく、上滑りした話が多い。AIにしても、それを使った結果として仕事がどれだけ良くなったかが話し合われないまま、「AIに頼るようでは」「楽なのになぜダメなの」といった仕事と遠いところで口論になっている印象があります。

仕事が改善されたかどうかの評価は、経験のあるベテランならできるはずです。AIを使ったかどうかで成果がどう変わるか判断できないのであれば、逆にその人の経験が問われます。正直なところ、もしそれが分からないのであれば、40、50代の側が“負け”を認めるべきだと思います。

もちろんAIには著作権や倫理の問題もあり、無条件に肯定できるものではありません。ただ、抽象的な価値観の話で対立したままでは議論は前に進まない。具体的な仕事に引きつけて考えるしかないのです。

例えばライティングであれば、AIで3000字のコラムが一瞬で書ける時代に、それを使うかどうかで揉めるのではなく、アウトプットの中身を見ればいいのです。ベテランなら実用に足るかどうか判断できるし、オーサーシップの問題についても具体的な指摘ができるはずです。

電話に出られない若者が増えているという話も同様です。顧客側が電話応対を前提としているなら、できないでは済まされない。逆に電話なしで業務が回るなら、無理にやらせる必要もない。世代論や価値観の話に持っていくのではなく、「仕事にとってどうか」という一点で判断すべきです。

管理職・経営者が問われている「覚悟」

率直に言うと、「若者のお客様化」の傾向はしばらく続くと見ています。

私は企業向け講演などの場ではよく、「大学の教育機能、特に社会人としての技能を教育する機能は弱く、十分に育たないまま入社してくる学生も多いと思います」と伝えています。

少子化の中で生き残りをかけて学生を奪い合う大学は、どうしても居心地の良い環境を提供せざるを得ず、テーマパーク化の流れは当面変えられない。大学の淘汰が進めばいずれ揺り戻しが起きる可能性はありますが、それはかなり長いスパンの話です。

とすれば、社会全体の傾向は変えられないという前提に立ち、個々の企業レベルで対応を変えるしかありません。勇気をもって「ここではもうお客様ではない」「うちの会社はこういう姿勢でいく」とはっきり示せば、若者も一定程度は受け入れてくれます。外部環境のせいにするだけでなく、自分たちの現場でどうするかを考えることが重要です。

あわせて問い直すべきは、受け入れる側の採用姿勢です。多くの企業は「後から社内で説明がつく人」を選びがちで、本当に欲しい人材かどうかより、評価の理由を説明しやすい人を選ぶような構造がある。そうした採用を続けている限り、就活の攻略法に染まった、無難な選択肢を選ぶ若者が内定し続けることになります。受かるために無難で適当なことを言っているだけの若者です。それでも自分が責任を負いたくないという態度が、採用する人材の質や傾向をそのまま規定してしまうのです。

若者のAI依存を嘆いたり、早期退職を嘆いたりするだけでは何も変わりません。モンスターを作っているのは我々の側だという認識に立ち返り、現場で何ができるかを問い続けること。それが今まさに管理職や経営者に求められている「覚悟」ではないかと、私は思っています。

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