<span>年齢制限では問題は解決しない――子どもたちの「SNS依存」危険性の論点</span>
(C)Xavier Lorenzo/shutterstock.com

特集|経済・ビジネス

Vol. 2

年齢制限では問題は解決しない――子どもたちの「SNS依存」危険性の論点

2026年5月20日

SNSは単なるコミュニケーションツールではない。新聞や雑誌とは全く異なるインセンティブで運営されており、人々の注意、行動、さらには政治的判断までも左右する「危険な製品」である。世界各国で子どものSNS利用を規制する動きが広がるなか、日本は何に取り組むべきなのか。ティム・ウーコロンビア大学教授に、SNS依存の危険性と規制の論点を聞いた。(取材・構成 大野和基)

増加するソーシャルメディア依存症への訴訟

――アメリカではSNS依存をめぐる訴訟が複数起きています。ビッグテックへの訴訟が起きている現状をどう捉えているか、教えてください。

ティム・ウー(以下ウー) ソーシャルメディア依存症をめぐる訴訟の波を見ると、それらは重要ではあるものの、問題を解決するには不十分だと感じます。MetaやBytedance(TikTokの運営元)といった企業に対する訴訟は、現実の問題に焦点を当てています。これらのプラットフォームは、エンゲージメント(ユーザーの利用度、利用時間)を最大化するように設計されていることが多く、特に若いユーザーにとって有害な場合もあります。

 プラットフォームが支配的になると、そのインセンティブは変化します。ユーザーの幸福ではなく、注目、データ、そして最終的には搾取を最適化するようになるのです。しかし、訴訟だけに過度な期待を抱くのは避けるべきでしょう。私が考えるに、根本的な問題は構造です。訴訟は、特定の設計上の選択、情報開示、慣行といった行動に焦点を当てる傾向があります。裁判所は罰則を科したり、変更を命じたりすることはできますが、そもそもそうした行動を生み出す根本的な市場構造を変えることは稀です。少数のプラットフォームが社会的交流を支配する集中市場においては、エンゲージメントを最大化しようとするインセンティブが常に存在します。

 たとえ一つの戦略が抑制されたとしても、別の戦略が必ず出現します。これらの企業が特に非倫理的だからではなく、システムがそうした行動を奨励しているからです。これは、ショシャナ・ズボフが著書『監視資本主義』で述べていることと密接に関連しています。すなわち、人間の注意と行動が原材料となるモデルです。ユーザーが長く利用すればするほど、その価値は高まります。こうした状況下では、いわゆる「中毒」は異常な現象ではなく、予測可能な結果なのです。また、離脱の問題もあります。競争市場では、製品に不満を持つユーザーは離脱することができます。しかし、ネットワーク効果が強い場合、その選択肢はほぼ理論上のものになってしまいます。人々は、社会的・経済的なつながりのある場所に留まる傾向があります。そのため、より良い代替手段への乗り換えという、通常の市場規律は効果的に機能しません。

 こうした理由から、私はこれらの訴訟を政策の失敗を示す兆候と捉えています。私たちは、そもそも集中を防ぐのではなく、集中が起こった後にその結果に対処しようとしているのです。この問題に真剣に取り組むのであれば、根本的な原因に目を向ける必要があります。つまり、独占禁止法の執行、買収制限、そして必要に応じて、特定のプラットフォームの支配力を弱める構造的な是正措置を通じて、競争を回復させる必要があるのです。訴訟は損害を軽減し、不正行為を明らかにし、段階的な変化を促すことができます。しかし、搾取という根本的な動機を取り除くことはできません。

 ですから、私の見解では、これらの訴訟はシステムの症状に対処しているに過ぎません。原因は市場構造そのものにあります。この問題が解決されない限り、たとえ具体的な形態が変化したとしても、同じ力学が再び現れると予想すべきです。

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「SNSは特に若いユーザーにとって深刻な問題になっている」と語るティム・ウー氏(筆者撮影)

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