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Vol. 3

世界一「過剰な医療」が日本人を不幸にする“矛盾”のメカニズム

2026年5月27日


<span>世界一「過剰な医療」が日本人を不幸にする“矛盾”のメカニズム</span>
スウェーデンは医療改革で病床数を4分の1に

 眼前に迫る医療崩壊の背景には、日本医師会が放置してきた「過剰医療」「無駄な医療」という根深い問題が横たわっている。本来、パブリックであるべきものに市場原理を持ち込んだ構造上の欠陥。それを頭に入れれば、医療界の問題をクリアに理解できるはずだ。

  体調が悪化したら近くのクリニックで診てもらう。処方された薬を薬局で受けとる。命に関わるような病気になったら大規模な病院にかかり、なるべく早く手術してもらう。こうした当たり前のことが当たり前ではなくなるかもしれない。その瀬戸際にある今、医療界の問題の全体像が頭に入っているという方はどれくらいいるだろう。

 医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏が言う。

「今、日本が抱えている医療崩壊を招きかねない状況は、そもそも過剰医療が原因なので、それを是正し、無駄な医療費を削る必要があります。ですがこれは、日本医師会の利益と真っ向から対立することですから、医師会に根本的な解決を期待するのは無理なのです」

 千葉県にある「名戸ヶ谷病院」整形外科の川口浩医師もこう語る。

「結局、無駄な医療を守っているのが医師会、とも言えるのです。医師・医療側が身を切る改革をせずに診療報酬を上げろと言っても、国民に理解してもらうのは難しいでしょう。医師・医療側が率先して無駄な医療を削るべきです」

 では、過剰医療や無駄な医療はなぜ生じるのか。それを正しく把握するためには、日本の医療界の「構造」を掴んでおく必要がある。

「日本はMRIもCTも、人口当たりの保有台数はダントツで世界一です」

 先の森田氏はそう話す。

「MRIはアメリカの2倍、イギリスの10倍持っています。また、病床数は、ここ数年は韓国に抜かれることもあるものの、基本的にずっと人口当たり世界1位です。アメリカの5倍、イギリスやデンマークの4倍の病床数を有しています。つまりハード面では、日本には世界一の病床・医療機器を備えた豊かな医療資源があるのです」

 無論、医療体制が整っていること自体は悪いことではない。しかし、

「実はこのハード面の潤沢さが、医療崩壊を招く要因となっている側面があるのです」

 と、森田氏は指摘する。

「日本はこれだけの設備を有していながら、医師数は、先進国の平均より少ない状態です。日本の医療機関は病床を満床にしないと経営が成り立たないので、元々多い病床を埋めようと満床を目指します。病床数はアメリカの5倍あるわけですから、単純計算で医師数も5倍でなければ手が回りません。しかし実際の医師の数は先進国の平均以下なので、医師は5倍忙しくなるのです」

 病床だけではなく、MRIなどの医療機器に関しても同様のことが言える。

「MRIは1台1億円から3億円くらいします。病院としては、当然ながらこの購入費用を回収するつもりで買っています。MRIは10割負担で1件数万円の高額な検査です。病院は機会があれば撮ろうとし、医師に一人10件、20件といったノルマを課しているところも珍しくありません」(同)

 MRIは撮って終わりではない。画像の読み込みや患者への説明など、付随する業務も全て医師がやらなければならない。

「MRIだけを見ても、こうした業務がイギリスの10倍発生していることになるのです。近年、医師、特に勤務医の過重労働が問題になっていますが、イギリスの10倍のMRI、アメリカの5倍の病床を保有する日本では、過重労働になるのは当然で、医師が朝から夜遅くまで働かないと病院が回らない構造があります。そもそもの仕事量が多すぎるのです」(同)

“ビジネスモデル”

 アメリカの5倍の病床があるからといって、病気がアメリカの5倍多いわけではない。それでは、病床を埋めるために何をしているのか。若くて元気な30代や40代の人を病人に仕立て上げて入院させることは出来ない。そこで、

「対象となるのが高齢者です。例えば、通院でもいい骨粗鬆症の高齢患者に“2、3日入院してきちんと検査しましょう”と言ったり、風邪をこじらせて肺炎を発症したものの、家で安静にして寝ていれば治るであろう患者さんを“念のため”と言って入院させる。こうしたことを繰り返して、アメリカの5倍の病床を埋めているのです」(同)

 高齢者の持病の多くは、即座に命に関わるものではない。

「高血圧や脂質異常症、糖尿病、認知症。例えば高血圧の患者さんの血圧の数値を下げれば、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクは10%程度下がるかもしれませんが、残りの90%は変わらない。つまり全体で見れば死亡リスクはほとんど下がらない。要するに寿命には関係がない疾患です」(同)

 日本の平均寿命が世界一の水準であることはよく知られている。2024年のWHO発表のデータでも、日本は84・46歳で世界一だった。しかし、

「先進国の平均寿命は大体80~82歳前後で、ほぼ差がありません。つまり、MRIやCTを人口当たりでイギリスの10倍持っていても、病床がアメリカの5倍あっても、その差が平均寿命に如実に現れているわけではないのです」(同)

 日本は入院患者一人当たりの平均入院期間も世界一である。国も入院の長期化を問題視しており、入院が長期に及ぶほど診療報酬が低くなるよう設定されている。にもかかわらず、全体の医療費が減らない裏には、あまり知られていないカラクリがあるという。

「近年、非常に多くの病院が系列の高齢者施設・住宅を持っています。これが何をやっているのかというと、例えば、高齢者が肺炎で入院し、家族が介護できない場合はそのまま入院を続けます。で、入院期間が診療報酬が下がる日数を超えてくると、傘下の介護施設への入居を促し、3カ月ほどしたら、また検査入院などの名目で入院させるのです」(同)

 傘下の高齢者施設・住宅にいる間は病院から医師を派遣し診察して診療報酬を稼ぎ、長期入院に該当する期間がリセットされると、また入院させる、という仕組みである。

「高齢者を患者予備軍、入院予備軍として、病院と高齢者施設・住宅でぐるぐる回しているわけです。これは医療コンサルタントや銀行が、病院にやるよう必ず提案する“ビジネスモデル”です」(同)

 入院期間だけではなく、日本は外来受診数も世界トップ水準である。その背景にも日本特有の問題が横たわっている。

「先進諸国では、生活習慣病などで、これまで処方されていたのと同じ薬であれば、医師の診察を受けずに薬局で購入できる国も多い。これがリフィル処方と呼ばれるものです。医師による処方でも、3カ月や半年分まとめて処方されます」

 と、森田氏は語る。

「ところが日本では、“細かく容態を確認する”という建前のもと、生活習慣病の患者さんに対して毎月、多いと月2回も受診させ、容態に変わりがないことだけを確認して診療料や処方箋料をとっているのです。しかも、整形外科、耳鼻科、皮膚科、内科、眼科、と複数の科を受診している高齢者も少なくありません」

 こうした現状の中、

「見極めなければならないのは、そもそも現在の日本の医療の提供量が本当に適正なのか、ということです。不必要な医療で医師の業務量が膨大になっている現状を維持したまま、医師不足を問題にしたり、診療報酬を上下させても意味がないのです」(同)

「市場の失敗」

 そんな日本と対極にある医療政策に舵を切ったのがヨーロッパ諸国である。

「北欧のスウェーデンでは、1992年に『エーデル改革』というものを行い、病床数をいきなりそれまでの4分の1にしました」

 と、森田氏が続けて語る。

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