トランプ現象は「鎮痛剤」だと批判していた過去
母親は薬物中毒、父親役は何度も変わり、祖母は近隣トラブルに銃を持ち出して威嚇したという逸話がある。海兵隊で厳しい訓練に耐え、アメリカのエスタブリッシュメントの象徴であるイェール大ロースクールを卒業し、ベストセラー作家へ。
ベンチャーキャピタルで投資家になり、ピーター・ティールの後ろ盾を得たかと思えば、かつてあれほど批判していたトランプ大統領を支持し、共和党から立候補し上院議員に。現在はトランプの右腕として副大統領におさまり、激変する世界の舵取りを任される──。
極端な貧困から権力の中枢に駆け上がるまでの40年間を見通してみると、これほど多面的な人物がいるだろうかと驚かされる。
ヴァンスはかつてのトランプ批判を過去に葬り去り、同氏に積極的に近づいたことで、左派からは「変節漢」と批判されがちだ。実際、2016年、プア・ホワイト出身のベストセラー作家として名をあげはじめていた頃のヴァンスがMAGA運動を「大衆にとってのオピオイド(鎮痛剤)」と痛罵した記事がある。以下のような論旨だ。
「Make America Great Againというスローガンは、アメリカ人の苦痛を一時的に和らげる鎮痛剤にすぎない。確かに、私の出身地のように工場がなくなったことで経済的には苦境に陥り、信仰が揺らいだことで家族は崩壊し、現実から逃れるために薬物に手を出す人たちが後を絶たないのは事実だ。だが、苦痛の原因を多国籍企業や麻薬カルテルだけに向けたところで、本来の解決からは程遠い。こうした地域に住む一人ひとりが真摯な自己反省を繰り返し、清算に向けた努力を粘り強くやっていくしかない」※Opioid of the Masses /The Atlantic誌、2016年7月4日
マッチョで、ストイックな省察である。持たざるものたちのエリート批判は「鎮痛剤」に過ぎないと知っていた彼は、なぜトランプに接近していったのか。 上院議員時代のヴァンス──本格的にMAGA運動に接近した頃──を知る、クレアモント研究所のアンドリュー・ベックは「ヴァンスは、自らが育った土地(※)・人々を見捨てなかったのだろう」と指摘する。