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習近平と中国人民解放軍に「台湾侵攻」を実行する能力はあるか――阿南友亮教授インタビュー(後編)

2026年5月25日


<span>習近平と中国人民解放軍に「台湾侵攻」を実行する能力はあるか――阿南友亮教授インタビュー(後編)</span>
汚職が蔓延する中国においては、兵器のスペックも“粉飾”の例外ではない[台湾の対岸、厦門港に停泊する中国人民解放軍のフリゲート艦](C)Wangkun Jia / shutterstock.com

共産主義を掲げながら格差が拡大する中国社会で、共産党は支配を続けるために人民解放軍の武力に依存している。しかし、構造的な腐敗がネックとなり、軍事力で日米同盟に追い付くことができない。習政権下では軍の高級幹部が次々と失脚しており、台湾侵攻に着手する状況にないという。

マルクス主義の発展段階論で言えば中国は「封建制」

――阿南先生の専門は中国人民解放軍の研究で、中国の最高権力者は「国家主席」ではなく「共産党中央軍事委員会主席」であると指摘しています。その人民解放軍では高級幹部の失脚が相次いでいて、中央軍事委員7名中5名が空席となり、残るは習近平主席と張昇民副主席だけです。習近平による「粛軍」との見方もありますが、どのように分析されますか。

 

 異常事態ですね。ただ、私はこの粛清劇も、中国に対する典型的な過大評価、すなわち「中国には軍事的にも敵わないのだから、日本が折れるしかない」という悲観論を見直すきっかけになると見ています。

 基本的に日本人は中国を過大評価しています。経済を見れば、特に沿海部はすごく近代化したイメージがありますが、あれは欧米諸国や日本の投資の賜物です。そして政治体制について見るならば、全く近代化が進んでいません。彼らが掲げるマルクス主義の理論に基づけば、人類社会はまず奴隷制から封建制に、封建制からいわゆるブルジョワ民主制に移行し、そこから社会主義へと発展することになっています。今の中国が社会主義であるとは、一般的な中国人ですら思っていない。ではブルジョワ民主制かというと、民主化なんて一歩も進んでいない。一体、この国の実際の政治的な発展段階はどこにあるのでしょうか。

 マルクス主義の理論に当てはめれば、いまだ封建制にとどまっていると言わざるを得ません。古代から清朝までの、一人の人間に権力と権威が集中するシステムが今も継続しています。江沢民や胡錦濤の時代は少しだけ個人独裁が和らいだものの、その前の鄧小平もストロングマンでしたし、毛沢東は独裁者と呼ばれていました。つまり根本的な統治形態は中国革命によっても変わらず、それを変えようとしたのが「改革・開放」でした。その試みを日本も支援しましたが、結果は民主化を求める人々を武力で虐殺する天安門事件(1989年)が起きて、結局何も変わらなかった。

 個人独裁から権力の分散化が起き、集団指導体制を経てやがて民主化する――。そうした展開を、90年代~2000年代の欧米と日本の中国研究者の多くは信じていました。ところが今、眼前にあるのは、個人独裁から集団指導体制を経て、また個人独裁に戻ってしまった現実です。中国では集団指導体制すら定着しなかったのです。

「神輿」がやる気を出して空回り

 遠回りになりましたが、要するに中国ではガバナンスが近代化していない。したがって軍隊の人事管理も、例えば自衛隊のような客観的な評価・昇任システムが機能しません。人民解放軍はプロフェッショナル化しているように見えて、中身は旧態依然とした個人のコネのネットワークで組織が形成されている。習近平に近い将軍たちが中央軍事委員会に配置されて、その手下たちがピラミッドのように各部隊に配置されるのです。

 習近平は、反腐敗の名目で自分の派閥ではない幹部たちを粛清して、代わりに息のかかった幹部を登用しました。ところがその腹心の部下たちも、ポストを得た途端、最高指導者の威信を後ろ盾に個人的な金儲けに走る。抜本的な統治機構改革をしない限り、反腐敗運動をいくらやっても同じことの繰り返しです。法治体制の確立という、近代国家の土台作りすらできていないからです。

 目下の「粛軍」から見えてくるのは、そもそも習近平と彼の部下たちの間にも、大きな認識のギャップがあったということ。自分の部下も汚職をするだろうとわかっていれば、今さら騒ぐ話ではないはずです。ところが大騒ぎして慌ててクビにした。どうも習近平は非常にナイーブに、自分が任用した人は汚職に染まらないはずだと思い込んでいた節がある。ところが蓋を開けてみるとそうではないとわかり、次々とクビを切っている。

 皮肉なことに、それは彼自身が集団指導体制を捨てて個人独裁に走った結果でもあるのです。習近平が唯一の絶対権力者である以上、彼の寵臣たちの腐敗を止められる人間も彼一人しかいない。しかし、一億人もいる共産党員の腐敗を根治することは不可能です。

 中央軍事委員会では、私が習政権下での軍の要と見ていた「ダブル張」の一角である張又侠副主席が失脚しました。彼は習近平が軍を掌握して改革する上での重要なパートナーでした。

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