政治

日本人駐在員とレアアースを手玉に取る中国の「人質外交」

2026年7月14日


<span>日本人駐在員とレアアースを手玉に取る中国の「人質外交」</span>
中国の鉱石場に積まれた、ギニアから輸入されたアルミニウム原料。製錬・精製の過程でレアアースが生産される

またもや中国で邦人が拘束された。背後では日本の経済安全保障に欠かせないレアアースが絡んでいる。希少鉱物の世界最大の輸出国・中国は、あらゆる手段で我が国への圧力を強めているが、対抗策を担うべき「高市官邸」は専門家の警告を無視していたのだ。

今年6月、中国で日本人社員2名を逮捕

 ダイヤモンドと真珠に彩られた宝飾品の総額は、2600万円にも及ぶという。それらを身に着けて舞台に立った高市早苗首相は、終始ご満悦の様子だった。

 インドでの首脳会談を終えて帰国した翌日の今月4日、高市氏は東京・有明で「第37回日本ジュエリーベストドレッサー賞」の授賞式に参加した。この1年で最も輝き、かつ宝石が似合う著名人として高市氏は特別賞を授与されたのだ。

 だが、彼女の胸元で煌めく宝石とは対照的に、日本の前途は希少鉱物の供給を巡り暗雲が垂れ込めている。

 7月1日、毎日新聞と共同通信は、6月に中国当局が、東京に本社を置く大手重電・富士電機グループの社員2名を逮捕したと報じた。

 この2名は、先月24日に木原稔官房長官が定例会見で「国家輸出入禁止貨物密輸罪」の容疑で拘束された事実を認めており、その処遇が注目されていた。

 外報部デスクが言う。

「現地メディアによると、今回逮捕された2名のうち一人は富士電機グループの現地駐在員、もう一人は出張中だった同社社員だとされています。それぞれ大連から規制対象となるレアアース磁石を日本へ持ち出そうとしたことが、現地の税関によって露見して5月に拘束されたようです」

 今後は起訴するか否かの判断まで最長7カ月かかり、裁判が始まれば判決が下るまで2、3年の時間を要する見通し。長期間の拘束は避けられそうにない。

「今回の容疑で有罪となれば、5年以下の懲役が言い渡されます。密輸しようとしたレアアース磁石が仮に軍民両用品、いわゆるデュアルユース品に該当する上に多量だったとすれば、5年以上の懲役が科される場合もあります」(同)

 中国当局にとっては、見せしめの逮捕劇だった可能性が高い。中国商務省は、先月24日にレアアースを含むデュアルユース品の管理を強化するよう通達を出しており、密輸など違法行為の密告を奨励していた。

 さらに中国商務省は29日、三菱電機ソフトウエアや防衛省防衛研究所など20の企業・団体を名指しして、デュアルユース品の輸出規制強化策を発表したのだ。

「標的となった日本の企業・団体には、中国からレアアースなどが含まれるデュアルユース品を輸入できなくなります。すでに2月には三菱造船など20の企業・団体がリスト化されていました。これで合わせて40もの企業・団体が禁輸対象となったのです」(同)

 今月6日には、中国海軍の原子力潜水艦から弾道ミサイルが発射され、中国当局は我が国の排他的経済水域(EEZ)の一部を、落下区域と事前通告した。

 かようなまでに挑発を続ける中国に対して、日本政府は手をこまねいているだけのように見える。

国家情報局は対中インテリジェンスに詳しい専門人材がいなければ機能しない

「すでに高市首相率いる官邸に対しては、今年に入ってから何度も専門家らが警告を発していました」

 と明かすのは、さる政府関係者だ。

「米中関係の悪化を受けて、昨年4月から中国当局はレアアースの輸出規制を強化していました。中でも高性能磁石の材料である重希土の対日輸出が全面ストップとなり、対策を取らないと大変なことになるとの指摘は、邦人拘束以前から官邸にもたらされていました」

 にもかかわらず、高市首相が陣頭に立ち、レアアース問題を所管する赤澤亮正経産相、経済安保を担当する小野田紀美内閣府特命相が対策に乗り出した様子はない。

 先週号の本誌では、ジャーナリスト・櫻井よしこ氏が連載コラム「日本ルネッサンス」の中で、邦人拘束の3カ月以上前に、内閣官房参与の細川昌彦氏が官邸に富士電機などレアアース規制に苦しむ企業の現状を報告。早急な対策を求めていたと明かしている。

「レアアースについては、私も以前から政府高官や国会議員らに警告をしていたのですが、どうにも彼らの感度が悪く、反応も良くありませんでした」

 と嘆くのは、キヤノングローバル戦略研究所上席研究員で中国研究センター長を務める峯村健司氏だ。

「今年1月6日の時点で、中国は日本へのデュアルユース規制についての概要を発表していました。表向き中国政府は“日本の再軍備阻止”だと説明していましたが、その真意を中国の研究者に聞くと『対日経済戦争』という言葉を使って、“日本の『非工業化』を目指す”とまで言っていた。“東洋の二流国に陥らせる”というほどの意気込みだと感じたので、これはマズイことになると思って政府高官らに警告していたのです」

 そうこうするうちに、前述した40を数える日本の企業・団体への禁輸・監視リストが一方的に公表されてしまう。

 再び峯村氏に聞くと、

「少なくとも1月時点で日本政府が何らかの対策を示していれば、ここまで事態は悪化しなかったかもしれません。あまりに危機感が欠けているのは、本気で経済戦争を仕掛けてきた中国政府の意図を読めていないことの証です。今回の“人質外交”は、これまでの経済的圧力から明らかにギアを上げてきています。一人目の邦人が拘束された5月18日は、北京で開催された米中首脳会談が終わり、トランプ大統領が帰国の途についた3日後でした。会談でトランプ氏は台湾への武器売却が中国との『交渉カード』となると語り、中国に歩み寄るような姿勢を見せた。これを米国による『譲歩』とみた中国は、同盟国である日本に対してより強い態度に出たのです」

 官民共に、日本がターゲットになっているという危機意識に乏しいとして、峯村氏はこう続ける。

「最大の問題は、せっかく国家情報局が創設されても対中インテリジェンスに詳しい専門人材がいなければ機能しない、という点です。官民を挙げてインテリジェンス機能を強化しなければ、日本は“第二の敗戦”を迎えるのではないかと危惧しています。私は年間100社くらいの企業に向けて講演をしていますが、拘束などのリスクについて9割以上の企業が何ら対策を講じていません」

 実際、レアアースを扱うさる企業の経営者に尋ねてみると、

「当社はレアアースを中国からの輸入に大きく依存しており、安価なので、どうしたって買わざるを得ない。中国と関わらないというのは無理なのです。もはやこの状況には、なるべくしてなったのだと思います。高市首相の台湾有事発言で風当たりが強まったと言う人もいますけど、それは一つのきっかけにすぎなくて、今まで日本は中国に甘すぎ、侮っていたんじゃありませんか。中国はレアアースを自国の武器にしようと虎視眈々と囲い込みを進めてきたのですから」

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