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日本は「意志への攻撃」を克服できるか――イラン戦争から学ぶべき教訓

2026年7月9日


<span>日本は「意志への攻撃」を克服できるか――イラン戦争から学ぶべき教訓</span>
ペゼシュキアン大統領が報復攻撃の対象になった周辺国に「謝罪」したことの意味は大きい(C)ZUMA Press Wire via Reuters Connect

米イスラエル・イラン戦争はこれまでの間に、日本の安全保障を考えるうえで見逃せない三つの経験や学びを残した。自衛隊海外派遣について、リスクに見合った効果という観点から具体的オペレーションの議論がおこなわれたこと。イランが長期的な抵抗を持続し、継戦能力の重要性が改めて示されたこと。そして、イランが周辺国に対して攻撃後に謝罪するなど、紛争関係国の「意志」を揺さぶる戦術に出たことだ。もし中国が在日米軍基地や自衛隊基地への攻撃後に日本に「謝罪」し、中国としてはやむをえない措置であったこと、日本がこれ以上加担しないのであれば追加的な攻撃はしないなどと言及した場合、日本は躊躇なく反撃能力を行使できるだろうか。

 アメリカとイスラエルが世界を振り回した対イラン攻撃から4か月弱が経った2026年6月17日、アメリカとイランは戦闘終結のための覚書に署名した。

 初戦のミサイル攻撃でイランの最高指導者アリー・ハメネイ師を殺害し、同国に「無条件降伏」を強制すると豪語したドナルド・トランプ政権だったが、イランのイスラム体制は倒れず、逆にイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖によって窮地に立たされることになった。今回の合意では、肝心の濃縮ウランの扱いについては先送りされたものの、攻撃は停止され、イランはホルムズ海峡を開放し、アメリカもイランに対する海上封鎖を解除することになった。

 たしかに、その後もイランによる商船への攻撃や、これを受けたアメリカ側からの空爆、イラン側からの再報復など、断続的な攻撃の応酬がおこなわれている。しかし本稿で見る通り、すでに米イスラエル・イラン戦争はこれまでの間に、日本の安全保障を考えるうえで見逃せない三つの経験や学びを残したといえる。

「9条エクスキューズ」からの脱却経験

 この戦争では、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡がイランによって封鎖されたことで、影響が日本を含め世界大に及んだ。トランプ大統領は3月14日に、日本などを名指しして、ホルムズ海峡の航行安全の確保のための艦艇派遣を求めた。日本でも自衛隊派遣が議論されることになった。

 自衛隊の海外派遣については長らく、「憲法9条により許されない」といった説明や言説が日本国内に横溢してきた。これを「9条エクスキューズ」と呼ぶとすれば、今回の自衛隊派遣問題ではこうしたエクスキューズから脱却し、「リスクに見合った効果が得られるのか」というより本質的な問いに向き合う経験を深めることができたといえる。

 「9条エクスキューズ」で手痛い目を見たのが、1990年から1991年にかけての湾岸危機・湾岸戦争だった。この時日本は自衛隊による多国籍軍への後方支援を拒否し、代わりに130億ドルもの資金協力をおこなったにもかかわらず、国際社会から冷笑されただけに終わった(停戦後、掃海艇を派遣)。この反省から、1992年にPKO(国連平和維持活動)協力法が制定され、カンボジアPKOを皮切りに、自衛隊がPKOに参加するようになった。また2001年のアフガニスタン戦争では、自衛隊はインド洋で有志連合軍に対する補給支援活動に従事し、2003年のイラク戦争でも人道復興支援のために自衛隊がイラクに派遣された。

 さらに2015年の平和安全法制では、重要影響事態や存立危機事態といった事態概念が創出された。これにより、米イスラエル・イラン戦争の文脈では、重要影響事態を認定した場合、ホルムズ海峡で任務にあたる外国軍に対して、自衛隊が給油などの後方支援を実施することができたことになる。また、ホルムズ海峡でのイランによる機雷敷設に対し、たとえ停戦前であっても、存立危機事態を認定すれば、自衛隊が限定的な集団的自衛権の行使として、機雷掃海活動に従事することが可能になっていた。なお、日本関係船舶を自衛隊が護衛する必要があるとなっていた場合には、海上警備行動の発令によって、ホルムズ海峡でも対応が可能だった。

 たしかに、自衛隊派遣についての法整備が万全というわけではない。たとえば、外国船舶の護衛については、自衛隊法95条にもとづく「武器等防護」の反射的効果によるものか、海賊対処法の適用といった、イレギュラーな対応をとらざるをえなかっただろう。また、平和安全法制制定時に創出された「国際平和共同対処事態」を適用することは、国連決議の成立が前提であり、またその場合でも自衛隊の活動可能な地域は「他国が現に戦闘行為を行っている現場ではない場所」に限られることになっていたはずである1。それ以前の問題としても、アメリカ・イスラエルによる対イラン攻撃は国際法違反の疑いが濃厚であり、日本が「ルールにもとづく国際秩序を擁護する側に与する」前提が崩れたことも、今回の自衛隊派遣問題にまちがいなく影を落とした。

 とはいえ、自衛隊の海外派遣に対する法的制約といわれるものは、かつてと比べ格段に緩やかになっている。前述のアメリカ・イスラエルによる国際法違反の問題についても、3月11日に採択された国連安保理決議第2817号によって、各国の活動の合法性をアメリカ・イスラエルの対イラン攻撃と切り分けて担保することは可能とする見解もある2

 こうしたことから、今回の事例では自衛隊派遣をめぐって「そもそも憲法上できない」の一言で思考停止するのではなく、リスクに見合った効果(ホルムズ海峡の安全航行の確保)が得られるのか、という観点からオペレーションについて議論ができたわけである。停戦前のホルムズ海峡には対艦ミサイルやドローンが飛び交い、そのような危険地帯に船舶護衛のためのイージス艦を派遣することはリスクをともなった。また掃海艇での機雷掃海にはそれ以上のリスクがあった。

 高市早苗首相が3月16日に国会で、護衛艦の派遣についても「まだ一切決めておりません」と答弁したように、この間日本政府は慎重な立場を崩さなかった。自衛隊派遣によって、リスクに見合った効果が得られるのかが慎重に検討され、停戦を待つ姿勢がとられることになり、そして結果的にそうした姿勢が奏功しているといえるだろう。

「長期化への備え」は抑止としても重要

 第二に、長期化への備えの重要性を実感できたことである。

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