ベッセント財務長官「強い雇用統計」発言は誘い水?
ドル円が7月1日に一時162.84円と1986年12月以来の高値をつける前、ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長とスコット・ベッセント財務長官は、米6月雇用統計が5月に続き強い数字になると相次いで予想した。とりわけ、ベッセント氏による「数字は見ていないが、6月雇用統計が非常に強くても驚かない」との発言は、ドル円を押し上げるドライバーとなった。
蓋を開けてみると、7月2日発表の米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比5.7万人増と市場予想の11.4万人増の半分程度にとどまった。失業率は4.2%と1年ぶりの水準に改善したとはいえ、労働参加率が2021年3月以来の水準に低下したように、職探しをしていた失業者が労働市場から退出した可能性もあり、手放しで好結果とは言えない。一連の内容を受け、ドル円は約1週間半ぶりに161円を割り込み、一時160.62円まで下落した。
振り返れば、両氏の発言は敢えてドル円の買いを誘い、引きつけたうえでドル円の下落を誘った「連携プレー」のように読める。そもそも、円先物のポジションは6月23日週時点で14万6,104枚のネット・ショート(売り越し)と2024年7月以来の高水準で、ショート(売り持ち)自体も25万9,802枚と過去最大水準にあった【チャート1】。投機筋の円売りポジションが限界に達していれば、調整を招きやすいのは道理だ。同時に、実弾介入(米国債売却)を使わずに効果を引き出せた分、真の"伝家の宝刀"は手つかずのまま残る。
【チャート1:投機筋、円先物のネット・ショートは2024年7月以来の高水準】
日本では三村淳財務官が7月1日に、ブルームバーグの単独インタビューで日米当局の連携が「最も緊密な状態」と強調した。翌2日にはロイターが日本の当局による介入手法が事前警告から沈黙戦略に変わったと報道し、韓国財政経済省の次官が日本やその他の関係国と緊密に連携していると発言、協調介入の思惑を誘った。自民党の麻生太郎副総裁が「40年ぶりの円安水準である為替動向も気になる」【チャート2】と言及したことも含め、全て偶然とは思えない。ベッセント氏が6月23日に通貨安誘導を牽制する姿勢を明確にしていた以上、米国が円安を望まないという共通認識のもとでの協調と読むのが自然だ。
【チャート2:ドル円はプラザ合意前の高値と2011年10月安値の半値戻しを超え、テクニカル的に真空地帯に突入】
次の節目は米6月CPI、ほかにも考えられる3つの手段
ただし、円安にブレーキが掛かっても一時的では意味がなく、再度の介入が視野に入る。その手法として、米消費者物価指数(CPI)が下振れた2024年7月のように弱い米経済指標に乗じるシナリオが考えられ、7月14日に発表予定の米6月CPIが一つの節目となりそうだ。当時は利下げ転換につながる結果がドル円の下落に拍車をかけたが、足元では年内の米利上げ期待が剥落すれば、ドル円を押し下げうる。