医療の「岩盤税制」に切り込めるか
医療は、1989年の消費税導入以来、「医療は消費ではない」とのドグマに基づき、「非課税」とされてきた。もっとも、消費税分だけ患者負担が軽減されているわけではない。代わりに、厚生労働省の定める公定価格である診療報酬に、その分が上乗せされている。処方薬の場合、レシート上は消費税がかっていないが、患者は実際には標準税率10%分を払っているに等しい。国民にはみえづらい不透明な形で、負担が課されているのだ。
なぜ診療報酬が上乗せされているかというと、医療の消費税は「0%」ではなく「非課税」だからだ。少しややこしい話にみえるかもしれないが、両者がどう異なるのか、消費税のそもそもの仕組みに遡って、簡単に説明しよう。
一般に消費税はモノを売った事業者が税務署に納める。例えば100円(消費税込み110円)の商品を商店で買った場合、10円分は消費者が負担するが、税務署に納付するのは商店だ。
一方、商店は、商品を仕入れた段階では消費税を負担した立場でもある。仕入れ価格が80円(消費税込み88円)とすれば、商店は、消費者から10円分を受け取る一方、8円分を負担している。そこで、これを差し引いて、2円を税務署に納めればよい。商店に商品を卸した事業者なども同様で、自らの仕入れ分を差し引いて納税する。これが「仕入税額控除」という仕組みだ。
これに対し、医療機関の場合、「非課税」だから、税務署に消費税を納めなくてよい。一方、「非課税」はあくまで医療機関による患者の診療に限ったことなので、医療機関が医療機器や諸設備の購入、医薬品の仕入れなどを行ったときは消費税10%がかかる。この結果、先の例で言えば、医療機関は8円分を負担しっぱなしになるわけだ。
それでは医療機関の負担が重くなってしまうので、消費税導入以来、補填のために診療報酬の上乗せがなされてきた。ただ、問題は、上乗せは仕入れ額に応じてなされるわけではなく、医療機関全体として補填されるよう、初診・再診料などへの上乗せがなされていることだ。
その結果、医療機関によって補填の度合いに差が生じる。つまり、医療水準をより高めるために最新の医療機器の導入や建物の更新などに力を入れる医療機関ほど、支払う消費税が多額になり、それに見合うだけの補填がなされず、損失が膨らむ。一方、設備投資を控えれば、支払った消費税分を上回る補填がなされ、逆に利益が生じることになる。近年、病院(規模の大きな医療機関)の経営悪化が問題になりがちだが、病院は概して設備投資が大きいためで、実は、「非課税」に伴う負担問題が要因の一つになっている。
病院の経営悪化や設備投資の抑制は、医療の劣化を招きかねない。そこで、解決の方策は、「0%」に制度改正することだ。
同じゼロでも、医療機関を消費税課税事業者にすれば、仕入税額控除を受けられる。先の例で言えば、設備投資80万円に対応した消費税8万円分は、税務署から還付を受けられる。これが「非課税」と「0%」の違いだ。「0%」にすれば、設備投資が大きいほど経営が圧迫される問題は解消される。非課税に慣れた患者の抵抗感は小さく、不透明な診療報酬上乗せをなくすこともできる。
簡単な解決のようだが、厄介なのは、背後に開業医の「概算経費」特例という難題が潜んでいるためだ。一定規模以下の医療機関は長年、概算経費(診療報酬収入の57~72%など)を計上する簡易な税務申告が認められてきた。仮に「0%」に制度改正して消費税課税事業者とした場合、仕入れなどの経費計上は必須になり、特例は維持できない。
「仕入れ分の経理処理なんて、小さな商店でも皆やっていることで、開業医もできるはず」と思われるかもしれないが、長年の習慣に馴染んでいるから、この特例の廃止となれば大反発は必至だ。政治的には大難題だから、政治家も役人も手を触れずにきた。いわば「岩盤税制」なのだ。
以上で、「0%」か「非課税」かという、一見どうでもよさそうな問題の本当の意味がみえてきたのではなかろうか。病院の経営悪化などによる医療劣化を防ぐため、「0%」に制度改正するのか。あるいは、昔ながらの開業医の概算経費を守るため、「非課税」を続けるのか。こうした議論こそ、「社会保障国民会議」で国民を巻き込んで行ったらよいはずだ。
新聞は食品並みの必需品か?
消費税に関して、もう一つの隠れた争点が新聞の扱いだ。現行税率は、一般の消費・サービスは10%、食品と新聞は8%、医療などは非課税となっている。このうち、食品の税率は2年限定で0%ないし1%になる方向だが、新聞だけ8%のままになるのか。
実は、日本維新の会は先の衆院選で「新聞を軽減税率の対象から除外」、つまり10%にすると公約していた。ここも大きな争点のはずだが、マスメディアはほぼ触れようとしない。
そもそも、なぜ新聞には軽減税率が適用されてきたのか。