政治

市民を「巻き添え」でなく「ターゲット」にしたロシア:ウクライナ侵攻という「クラウゼヴィッツの鬼子」

2022年3月13日


<span>市民を「巻き添え」でなく「ターゲット」にしたロシア:ウクライナ侵攻という「クラウゼヴィッツの鬼子」</span>

プーチンは確かに理解不能な軍事行動を続けているが、それを「狂った」と片付ければ重要な本質を見落とすだろう。侵攻目的はウクライナの占領自体にはなく、社会をいかに傷つけ破壊して、将来にわたるNATO非加盟と東部地方分離を認めさせるかという政治的要素にあるはずだ。この「傷つける力」という19世紀的な武力行使観のもとで、侵攻の遅れ自体はさして問題でなく、また市民は社会を破壊するための明確なターゲットになると言える。

 2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した。2021年秋頃から、ウクライナ国境付近のロシア軍配備の増強をきっかけに始まったウクライナ危機を巡って、首脳外交までもが行われて事態の打開が模索されている中での衝撃的な攻撃開始であった。

 これについて、「プーチンは狂ったのか」「理解できない行動」との評価もみられるが、筆者は、「政治的目的を達成するための軍事行動」として捉えると、ウラジーミル・プーチン大統領なりの「合理的行動」として十分理解することができると考えている。軍事行動と政治的目的との連接性を見いだすことができるからだ。

 しかし、これは、戦争を「政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続」(カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』)として捉える、19世紀的な「古い」武力行使観そのものでもある。そして、武力の矛先は、相手の武力だけでなく、社会そのものに向けられている。その意味でいま、世界は「クラウゼヴィッツの亡霊」と向かい合っているとも言えるのかもしれない。

1.「政治的目的」と「軍事行動」の関係:軍事は政治に従属する

 クラウゼヴィッツとは、19世紀のプロシアの軍人で、『戦争論』の著者として知られる。彼はまた、ナポレオンのロシア侵攻作戦の際、プロシアを一時離れてロシア側で従軍したこともある(トルストイの『戦争の平和』にもごくわずかながら登場する)。『戦争論』のほとんどは、19世紀における軍事組織、軍事技術を前提とした戦術論を論じている。その意味で「時代遅れ」の書でもある。……

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