一時期は大学受験生必読と言われた小林秀雄『考へるヒント』。月刊誌連載だったこの随筆は、当時の時代精神と切り結ぶ小林の姿勢が如実に表れている。これを題材にして、小林の知られざる側面に迫った『小林秀雄の謎を解く』を刊行した苅部直氏が、小林の歴史観や人文知のあり方を考察する。
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文庫本の帯に「センター試験で話題沸騰」の文句。センター試験とはもちろん、現在の大学入学共通テストの前身にあたる、2020(令和2)年度まで実施されていた大学入学センター試験のことであるが、このコピーを見て、どんな本だと思うだろうか。
実はこれは、文春文庫の小林秀雄『考えるヒント』第1巻(単行本は1964年刊行、1974年に文庫化)が、2015(平成27)年7月に増刷(新装版第19刷)されたさい、つけられた帯に印刷された文句である。この第1巻は、雑誌『文藝春秋』に小林秀雄が連載していた随筆「考へるヒント」(以下、連載の題名は単行本に合わせて旧かなで表記する)を主に収めているが、その初出と重なる時期に、『芸術新潮』1962(昭和37)年6月号上で発表された小林の随筆「鐔(つば)」が、2013年度の大学入試センター試験の「現代文」問題で使われた。それを記念して(?)新たに作られた帯だったのだろう。……