カルチャー

果てしないマンガの山から選び抜いた今年の5冊

2023年12月29日


<span>果てしないマンガの山から選び抜いた今年の5冊</span>

  わたしはマンガ研究者なので、マンガを読んでいる時間がかなり長い方だと思うけれど、それでも読み尽くせぬほど作品があるので、正直困っている(笑)。女性向けマンガが主な専門なので、そこに絞って読むとしても、全てをカバーしきれるものではない。その果てしなさにいつも呆然とするが、他の同業者も同じようなことを言っているので、これはもう、みんなに共通の悩みだと割り切って、お互いにオススメを教え合うのが一番!という結論に至っている。というわけで、今年同業者に教え/教えられた作品の中でもとくにおもしろかったものについて書いていきたい。

 つい先日、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」内で「アトロク漫画部が選ぶ! このマンガがすごい面白い2023」という企画が行われた。出演者がそれぞれイチオシの本をプレゼンして、最終的にその中の一番を決めるのだ。マンガをこよなく愛する出演陣は、一番なんか決められないよ〜!と苦しみながらも、わたしの推薦したよしながふみ『環と周』(集英社、2023年)を選んでくれた。同作では、環と周という名前をもつ二者の人生が、時代や性別を変えながら描かれている。特別な縁で繋がれた者は、この世界だけじゃなく、別の世界でも出会っているかも。どの世界の環と周も、人生のままならなさを感じながら、それでも手を携え、生き延びようとしているかも。そのことを、単なる絵空事じゃなく、ものすごく説得的に描いている。たった1巻で終わる作品なのに、とてつもなく奥行きがあるのがすごい。

よしながふみ『環と周』(集英社、2023年)

 小玉ユキ『狼の娘』(小学館、2023年~)も今年わたしが押しまくった作品である。人間として生活しながらも狼に変身できる種族がいて、ヒロインの月菜もまた女子高生&狼なのだけれど、つい最近まで自分が狼だと知らなかったせいで、アイデンティティに揺らぎが生じている。そりゃそうだ。人間だと思っていたのに狼だと言われても困る。しかも、白い狼と黒い狼の2種類しかいないというのが定説なのに、彼女だけなぜか灰色の狼なのだ。そんなのますます困る。困るけれど、自分が特別存在なのだと知ったときの高揚感がないわけではない。それに「本当の自分」とはなんなのか、それに向き合わねばならないのは、狼になれない我々も同じ。非現実な世界を舞台にしながらも、そこに共感の核がある。月菜が自分のあり方を自分で決められるといいなと思うし、その日が来るまで、保護者気分で見守りたい。

小玉ユキ『狼の娘』(小学館、2023年~)

 野球マンガはわたしの専門外だが、平井大橋『ダイヤモンドの功罪』(集英社、2023年~)は、これまでにない野球マンガだとオススメされたので読んでみたところ、めちゃくちゃ怖い話だった。まず、主人公の「次郎」がまだ小学5年生だというのに、スポーツの天才すぎるのだ。何をやらせてもすぐできてしまうので、一所懸命に練習している周りの子どもたちを凹ませてしまって、その場に居づらくなることを繰り返している。やっとの思いで辿り着いた少年野球の世界がようやく彼を受け入れてくれるのだが、平和な時間は長く続かない。この才能を埋もれさせてはならないという、熱いっちゃ熱いが、かなり身勝手な欲望が大人たちを支配しはじめるのである(目が爛々!)。次郎はただ、みんなと楽しく野球をしたいだけなのに……。天才って大変。というわけで、野球のことに詳しくなくても大丈夫。天才の光と闇を見つめる覚悟さえあればよい。……

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