メキシコはいま投資ブームに沸いている。コロナ禍と米中貿易摩擦はグローバルに広がるサプライチェーンの脆弱性を露呈させた。サプライチェーン断絶のリスクを軽減するために、企業は市場近くに生産拠点を移すニアショアリングの動きを強めている。移転先として注目を集めているのが、米国の隣国メキシコである。昨年には電気自動車の米国テスラが、今年に入り中国BYDが新規大型投資を発表している。おりしもメキシコは6月2日に大統領選挙と国会議員選挙を控えている。好調な経済の追い風を受けて、大統領選では現職アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(通称アムロ ※イニシャルA.M.L.Oから)の後継者クラウディア・シェインバウム女史の当選が確実視されている。
ニアショアリング投資先の必須要件は大市場への近さであり、この点でメキシコの優位は揺るがない。しかしメキシコはこの優位を減殺する隠れたリスクも抱えている。筆者が懸念するリスクを3つあげれば、現政権のナショナリズムとポピュリズム、財政赤字の拡大、悪化する治安となる。
アムロ政権のナショナリズムとポピュリズム
2000年以降メキシコでは右派のPAN(国民行動党)から中道のPRI(制度的革命党)へ、さらに左派のMORENA(国民再生運動)へと政権政党が目まぐるしく交代した。MORENAを率いるアムロは元PRI党員で、1989年PRIの党内左派がPRD(民主革命党)を結成した際に、PRIを離れPRDに入党した。2006年と2012年の大統領選にPRDから出馬したがいずれも2位に甘んじた。その後路線対立からPRDを離れ、MORENAを結成。そして2018年3度目の挑戦で大統領ポストを得た。
アムロ政権のナショナリズムはエネルギー政策に表れている。メキシコでは2000年まで70年あまりPRIが支配する権威主義体制が続いた。PRI体制では石油と電力のエネルギー産業は二つの国有企業が独占し、特に外国企業を接収して国有化された石油産業はナショナリズムのシンボルとなり、イデオロギーと資金面でPRIの支配を下支えした。しかし国有企業による独占は非効率と投資不足により需要の拡大に応えられず、PRI体制終盤には行き詰まった。対策として電力では1992年以降、石油では2013年以降、国有企業の独占を改め民間企業に門戸を開く制度改革が実施された。その結果、外国企業の投資が拡大していた。アムロのエネルギー政策はこの流れを逆転させるものといっていい。……