石破流「なめられてたまるか」と欧州の「チャーム・オフェンシブ」の差
「チャーム・オフェンシブ」とは、自身の魅力を生かして目的を達成しようとする試みを意味する。2016年の米大統領選直後、勝利したドナルド・トランプ氏との会談に向け真冬のニューヨークへ乗り込んだ安倍晋三首相(当時)は、まさにその好例と言えよう。
安倍氏の成功は、その後の各国首脳のトランプ対策にも生かされている。キア・スターマー英首相とトランプ大統領は6月16日、主要7カ国(G7)首脳会議の最中に米英の貿易協定に署名した。記者団の前でトランプ氏が合意書を取り出すと、風が吹き文書が散らばってしまう。これを跪いて拾ったのがスターマー氏だ。
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、トランプ氏と会談したマルク・ルッテ事務総長が「ダディ(「父親」から転じて、「権力者」「強者」などを含意している)は時に厳しい言葉を使わなければならない」と茶目っ気たっぷりにコメント。これは、トランプ氏が停戦合意後も攻撃を止めないイスラエルとイランに業を煮やしFワードを口にしたことについて、面目を立てるかのようにユーモアで切り返したものだ。
スターマー氏とルッテ氏は、一部では「媚びへつらった」と批判されたが、むしろ実利に配慮した行動と言えよう。英国はトランプ政権との貿易協定に署名に漕ぎつけたことで、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」の見直しに当たって懸念されていた数十億ドル規模の原子力潜水艦契約の維持にも成功した。米国との二国間交渉を控えた2月には、国防費を国内総生産(GDP)比2.3%→2.5%へ引き上げると発表。NATOも首脳会議にて6月25日、トランプ大統領の要請に応じ、国防関連費を2035年までにGDP比5%への引き上げ(国防費:3.5%、安保上のインフラなど1.5%)を決定。米国の脱退リスクを限りなくゼロに近い水準へ落とし込んだ。……