カメラもマイクもいらないAI映画の魅力とは何か
生成AIを使えば、生身の役者はもちろんのこと、カメラもマイクも要らない。ツールに文章で指示を与えるだけで、実写のような登場人物やアニメタッチのキャラクターを生み出し、それらを動かして、喋らせることができる。背景の映像や劇中に流す音楽だって、文章による指示だけで作成が可能だ。結果、黙々とパソコンに向き合い、映画を完成させる“監督”が現れるようになった。
「現在、私の仕事はAI映画監督です。元々はサーフィン業界に身を置き、波予想サービスのWebディレクターとして、海の情報を届ける携わっていました」
こう語るのは、谷田裕紀氏(34)。インドネシアで2025年9月に開催された「バリ国際AI映画祭」にて、審査員賞と観客賞の2冠を獲得した9分の短編AI映画『flower-すべてはここに在る』を手掛けた人物だ。その後、AIを用いた映像制作の仕事を受注する機会が増え、今では生活の糧を得られるようにまでなったという。
「『flower』を作った理由はシンプルで、昔から映画を撮りたいと思っていたからです。ただし、従来はスポンサーを見つけてきたり、仕事を休業する必要があったりと越えなくてはならないハードルが高く、実現には至りませんでした。ところが、ふと2年半ほど前から動画生成AIツールを使い出したところ、ものすごいスピードで性能が上がっていく様を目の当たりにした。“これなら映画を作られる”と考え、25年2月から作業に取りかかり、3カ月をかけて作品を完成させました」(同)
同作品は老女の視点を通して、日本の夏の田園風景を描く。登場人物の動きは少なめで、静かな映像詩とも言える抒情的な物語だ。AIとは縁が遠そうな自然信仰やアニミズム、輪廻転生といったテーマを取り上げ、高評価を受けた。
「AI映画の魅力は、たった一人でも全てのパートを完結させられるところです。実際、私は『flower』を単独作業で仕上げています。俳優に気を遣うことなく、何度でもNGを出せますし、スポンサーの意向もないので、台本を丸っきり変更することもできる。創作を続けるにつれて、イメージがどんどん膨らんでいきますね」(同)
長編AI映画を手掛けた日本人女性は映像制作未経験
世界中で制作が相次いでいるAI映画は、もはや短編だけではない。スペインのバルセロナに住む50代の日本人女性、遠藤久美子氏が手掛けたSF作品『マチルダ 悪魔の遺伝子』は72分の長編だ。同作品は、ベルギーで25年10月に開かれた「レーザーリール・フランダース映画祭」にてお披露目された後、日本では同年12月から今年にかけて全国6カ所の映画館で、長編のAI映画として初めて劇場公開された。
物語は、人類を破滅させる暴力性の原因である“悪魔の遺伝子”を持つ男性が消え去り、女性だけの“単性社会”となった約200年後の地球が舞台。劇中に登場するフェミニンなファッションや洗練されたデザインの未来都市が、芸術的だと評価されている。
実は遠藤氏、紙オムツの「ムーニーマン」やコンビニエンスストアの「ファミリーマート」などのCMソングを1000本以上、生み出し歌ってきた、その世界では有名なスタジオミュージシャンである。もっとも映像制作経験はなかったそうで、彼女本人にAI映画監督となった経緯を聞いた。
「25年ほど前から構想があり、きっかけさえあればストーリーを映像化したいと思っていたところ、AIで画像が生成できることを知ったんです。まずは24年、生成AIに詳しいクリエイターの方に手伝っていただきながら、できた静止画をつなぎ合わせて『マチルダ』のトレーラー版のような短編を試作してみました。この時、音楽についてはAIを用いず、私と友人たちとで作っています」
そうしたら偶然にも、バルセロナで向かいの家に住んでいる女優でタレントのMEGUMIの目に留まったという。
「彼女は当時、フランスのカンヌで日本文化を紹介するイベントを企画しており、25年5月に開催されたその会場で、『マチルダ 悪魔の遺伝子』のトレーラー版を上映してくださいました。すると、来場していた『レーザーリール・フランダース映画祭』の創立者から“次は長編が観たい。AI映画はまだショートフィルムばかりだから、本格的な長編作品ができれば、あなたは一番になれる”と発破をかけられたのです。そこから、私ともう一人の制作パートナーという映像の素人コンビで、4カ月をかけて映像と台詞のすべてを動画生成AIツールで作り、念願の『マチルダ』を完成させました」(同)
晴れてAI映画の第一人者となった遠藤監督は今後、何を目指すのか。
「異なる作品を次々に送り出すのではなく、ライフワークとして『悪魔の遺伝子』を続けていきたいと考えています。映画『スター・ウォーズ』シリーズのように回数を重ね、人類の暴力の根源に切り込む壮大なサーガを描いていけたら幸いです」(同)
5秒の動画を完成させるために300回やり直す
目下、ここ日本でもAI映画専門のフェスティバルが催されるようになった。昨年11月には東京・丸の内で「第1回AI日本国際映画祭2025」が、今年3月には京都市で「WORLD AI FILM FESTIVAL(WAIFF) 2026 in KYOTO」の開催が予定されている。後者の「WAIFF」は、フランスのカンヌで開かれた同名のAI映画祭の一環だ。