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トランプ大統領の発言とアクション(5月21日~28日):イラン戦争と「踏み絵」の外交――「覚書」「アブラハム合意」の攻防が残す影

2026年5月30日


<span>トランプ大統領の発言とアクション(5月21日~28日):イラン戦争と「踏み絵」の外交――「覚書」「アブラハム合意」の攻防が残す影</span>
イランが「通行サービス料」徴収に協力するというオマーンに対し、ベッセント財務長官も警告姿勢を明確にした (C)REUTERS/Kylie Cooper

トランプ政権は“三つの圧力”を、湾岸諸国に対して同時並行で展開している。これらは中長期の交渉において、トランプ政権の交渉カードとなりうるだろう。――トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。

「アクシオス」スクープ記者が「合意成立」を報道

 米国とイスラエルがイランへの攻撃の火蓋を切った2月28日以降、和平交渉の核心に触れるスクープを連発しているのが、米政治系メディア「アクシオス」のバラク・ラヴィド記者だ。イスラエル出身のラヴィド氏は、携帯電話ひとつでイスラエル中枢からホワイトハウスまで直結する独自のパイプを持つとされる。Xでは「19日間で5度も合意間近と報じながら一度も実現していない」と皮肉るコミュニティ・ノートが付けられているが、その勢いは他の追随を許さない。

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出所:Barak Ravid/X

 イラン戦争に関するラヴィド氏のスクープが、常に政治の先回りをしてきたのは事実だろう。4月1日に「ホルムズ海峡の再開と引き換えにした停戦協議」を報じると、同月7日にはドナルド・トランプ大統領が2週間の暫定停戦を表明した。5月23日に「米国とイランが60日間の停戦延長を柱とする覚書の署名に向けた最終調整に入った」と報じたところ、トランプ氏も同日、覚書をめぐり大筋合意に至ったと発表している。そして5月28日、ラヴィド氏は米国とイランの交渉担当者が60日間の停戦延長で最終合意し、トランプ大統領の署名を待つ段階に入ったと新たな展開を記事にした。

 しかし、トランプ大統領の決断は、現時点ではまだ宙に浮いたままだ。エルサレム・ポスト紙は、イランの実権を握るモジタバ・ハメネイ師が合意を支持していないことが背景にあると伝えている。

今回の覚書とJCPOAとの相違点、共和党の反応は?

 ラヴィド氏のアクシオス記事によれば、米国・イランの交渉担当が合意した覚書草案の骨格は、60日間の停戦延長、ホルムズ海峡の「無制限」航行保障、イランによる30日以内の機雷撤去、米国の海上封鎖の段階的解除、そして核交渉の開始が柱となる。イランは核兵器を追求しないとのコミットメントと、ウラン濃縮停止および高濃縮ウラン廃棄の交渉参加を口頭で約束したとされる【チャート1】。

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出所:各種報道よりストリート・インサイツ作成

 2015年のJCPOA(包括的共同作業計画)と比較すると、両者の性格と射程は根本的に異なる。オバマ政権時代のJCPOAは、国連安保理常任理事国に独を加えた「P5+1」という多国間の法的拘束力を持つ条約型の枠組みだった。そこには、低濃縮ウランの備蓄削減、濃縮度3.67%以下への厳格な制限、IAEA(国際原子力機関)による抜き打ち査察の義務化、そして凍結資産解放が制度として組み込まれていた【チャート2】。

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出所:各種報道、米国務省資料などよりストリート・インサイツ作成

 対して、今回の覚書は米・イラン二国間の法的拘束力のない暫定合意の枠にとどまる。核廃棄の具体的手順、経済制裁の恒久解除などといった難題は、すべて「60日間の交渉テーマ」として次のステージに先送りされている。ホワイトハウス内部で囁かれ始めたという「No Dust, No Dollars=核物質(ダスト)を出さなければ、ドル(制裁解除)もなし」というフレーズが示す通り、この覚書はあくまで本交渉のテーブルにイランを縛り付けるための「入口」だ。この「入口」をどう評価するかに、共和党内で温度差が生じうる。

 現在はCNNで政治コメンテーターを務めるスコット・ジェニングス氏は合意報道を受け「大いなる勝利となりそうだ」と歓迎した。それでもトランプ大統領が「数日考えたい」と即断を避けたのは、「完勝」を印象づけられる内容かを、慎重に検討したいからではないか。

 テッド・クルーズ上院議員(テキサス)は、トランプ氏が大筋合意に言及した5月23日に「イスラム主義政権が資金とウラン濃縮の権利を手にするならば壊滅的な誤りだ」と断じリンゼー・グラム(サウスカロライナ)、ロジャー・ウィッカー(ミシシッピ)の両上院議員も反発。トランプ政権1期目で国務長官などを歴任したマイク・ポンペオ氏も「オバマ政権の交渉官プレイブックそのものだ」と痛烈に批判し、ホワイトハウスのスティーブン・チョン広報部長がXで「馬鹿な口を閉じて本物の仕事はプロに任せろ」と反撃する場面もあった。トランプ政権1期目に袂を分かったジョン・ボルトン元国家安全保障補佐官も、PBSで「イランは海峡を電灯のスイッチのようにオン・オフできるという先例を作る」と警告した。

 一方で、リバタリアンのランド・ポール上院議員(ケンタッキー)は「トランプ大統領の外交努力を支持する」と公言する。5月26日のテキサス州共和党上院予備選では、2023年に「(トランプ氏の)時代は過ぎ去った」と発言した現職ジョン・コーニン議員に対し、トランプ氏が全面的に支持したケン・パクストン州司法長官が勝利。党内における「トランプの威光」を改めて見せつけるなかで、イラン合意を「米国の完全勝利」としてアピールできれば、党内の反発や懸念をねじ伏せ、主導権を完全に握れるはずだ。

 トランプ氏はイラン合意をめぐる党内タカ派の批判を封じられるか、そして勝利を確実にできるのか。これはイラン戦争の歴史的評価に結び付くことは間違いない。

オマーン、アブラハム合意拡大…それぞれの「踏み絵」としての意味

 外交圧力と並行して、経済的封じ込めも強化されている。米財務省外国資産管理室(OFAC)は5月27日、「航行サービス料」の名目で実質的な通航料徴収を画策しているとして、イランのペルシャ湾海峡管理局(PGSA)をSDNリストに指定。イラン革命防衛隊(IRGC)と関連した組織として、これとの取引を行う外国人や外国企業が二次制裁の対象となりうることを明示した。

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