パリ中心部5区の丘に建つパンテオンは、フランスの歴史的偉人を祭る霊廟だ。歴代フランス王の墓所があるパリ北郊のサンドニ大聖堂とは異なり、パンテオンはもっぱら「共和国」の偉人を顕彰する目的を持っている。埋葬されているのは、啓蒙思想家ジャンジャック・ルソーやヴォルテール、科学者のキュリー夫妻、作家のエミール・ゾラ、哲学者アンリ・ベルクソンなど約80人。共和国最高の栄誉に値する、そうそうたる面々だ。そこに今年11月、異色な名前が加わることが、このほど決まった。
ジョセフィン・ベーカー(1906~1975年)。米国に生まれ、後にフランス国籍を取得してパリに没した黒人女性歌手でありダンサーだ。1920~30年代、パリのキャバレーでバナナの腰みのを着けて踊るダンスは、セックスシンボルとして一世を風靡した。黒人女性がパンテオンに埋葬されるのは初めてであり、アーチストとしても初めて。彼女はなぜ今回、作家ヴィクトル・ユゴーらの隣に眠ることになったのか。
18年にはシモーヌ・ベイユを改葬
パンテオンに誰を祭るかを決めるのは、フランス大統領の専権事項である。従って、そこには政治的なメッセージがある。ジャック・シラク元大統領は1996年、作家アンドレ・マルロー(1901~1976年)をパンテオン埋葬の列に加えた。マルローは第2次大戦中、ナチスに抵抗するレジスタンス運動に加わり、戦後はシャルル・ドゴール大統領の下で文化相を務めている。政治家としてドゴール直系を自任したシラクが、自らの系譜を可視化し、有権者に目配せした意図が垣間見える。
エマニュエル・マクロン現大統領は2018年、女性政治家のシモーヌ・ベイユ(1927~2017年)をパンテオンに改葬した。アウシュビッツ絶滅収容所から生還したユダヤ人であり、保健相として人工妊娠中絶の合法化に取り組み、欧州共同体=EC、現在の欧州連合(EU)=欧州議会初の女性議長を務めたベイユ顕彰のメッセージは、女性の権利拡大や欧州統合に改めて光を当てるということだろう。……