ロシア人の名前は覚えにくい。だから、フィリピンの女性ジャーナリストとともに、ロシア人のジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏が今年のノーベル平和賞を受賞したとのテレビ報道を聞いた時、すぐにはだれのことかわからなかった。
しかし、精悍だが、にこりともしない彼の風貌が映し出されるや、私は思わず声を上げた。いまや、ロシアでほぼ絶滅危惧種となった独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)の編集長・ムラトフ氏ではないか。
別のテレビニュースは、モスクワ中心部にある「ノーバヤ・ガゼータ」の社屋の前で、押し寄せたマスコミにもみくちゃになりながらインタビューに答えるムラトフ氏の姿を映し出していた。彼はやはりにこりともせず、「この賞は、新聞社と亡くなった6名が受賞したのだと思っている」と話していた。
同社の社屋は、19世紀の貴族の館を改装したもので、新聞社というよりこぢんまりした出版社という佇まいである。小さな新聞なのだ。彼の後ろにちっぽけな木のドアが見え、思わず、「ああ、あそこのドアから何度もこの社屋に入ったなあ」という感慨が湧いた。……