政治

ノーベル平和賞ムラトフ氏が「言論の自由」を諦めようとした日

2021年10月13日


<span>ノーベル平和賞ムラトフ氏が「言論の自由」を諦めようとした日</span>

ノーバヤ・ガゼータ紙の古参記者は、取材を続ける福田ますみ氏に耳打ちした。「創刊時、彼は、政治の記事は紙面の一番最後でいいと言っていたんです」。記者たちを次々と殺されながらプーチン政権批判を続けたムラトフ氏の知られざる苦悩。

   ロシア人の名前は覚えにくい。だから、フィリピンの女性ジャーナリストとともに、ロシア人のジャーナリスト、ドミトリー・ムラトフ氏が今年のノーベル平和賞を受賞したとのテレビ報道を聞いた時、すぐにはだれのことかわからなかった。

   しかし、精悍だが、にこりともしない彼の風貌が映し出されるや、私は思わず声を上げた。いまや、ロシアでほぼ絶滅危惧種となった独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」(新しい新聞)の編集長・ムラトフ氏ではないか。

   別のテレビニュースは、モスクワ中心部にある「ノーバヤ・ガゼータ」の社屋の前で、押し寄せたマスコミにもみくちゃになりながらインタビューに答えるムラトフ氏の姿を映し出していた。彼はやはりにこりともせず、「この賞は、新聞社と亡くなった6名が受賞したのだと思っている」と話していた。

   同社の社屋は、19世紀の貴族の館を改装したもので、新聞社というよりこぢんまりした出版社という佇まいである。小さな新聞なのだ。彼の後ろにちっぽけな木のドアが見え、思わず、「ああ、あそこのドアから何度もこの社屋に入ったなあ」という感慨が湧いた。……

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