1.ウクライナ戦争をめぐる中国の動き
ウクライナの戦争は長期化の兆候を示しており、ロシアの侵攻開始直後に想定されていたような短期でのロシアの勝利、そして占領は実現しなかった。ウラジーミル・プーチン大統領は、第二次世界大戦の対独戦勝記念日の「5月9日」を、自らが勝利を宣言する日として設定している。それへ向けてマリウポリなど東部の主要都市への攻撃が激しさを増している。
すでにロシア政府はこの戦争により、厳しい経済制裁の中で膨大な額の戦費と、想定外のロシア側戦死者という巨大な負債を背負っている。戦争継続は、中国がどの程度ロシアを支援するか、あるいはどの程度ロシアから距離を置くかによって大きく左右されるだろう。そのため、最近の論壇では中ロ関係やウクライナ戦争をめぐる中国政府の動向に注目が集まっている。
■「友情」がレアルポリティークの領域に適用されるとは限らない
例えば、著名な冷戦史家でイエール大学歴史学部教授のO・A・ウェスタッドは、歴史的に回顧しても中ロが一枚岩となる可能性は低いと論じ、戦争初期の協力にも拘わらずいずれ亀裂が走るシナリオを示している[Odd Arne Westad, “The Next Sino-Russian Split?(次なる中露の分裂?)”, Foreign Affairs, April 5, 2022]。何よりも、中ロ両国とも、国内政治の力学によって外交が規定されている。歴史家のウェスタッドは、現在の中ロ関係が20世紀初頭の独墺関係に似ていると論じる。すなわち、衰退するオーストリア帝国(現在のロシア)が、台頭国のドイツ帝国(現在の中国)を意図せぬかたちで戦争へと巻き込んだというパターンと同様の動きが見られ、それを中国は回避するべきだと論じている。西側諸国に可能なことは、中ロ間の亀裂を深めることぐらいだ。冷戦期の中ロ関係を専門としてきたウェスタッドだけあり、鋭い指摘である。
モスクワ国際関係研究所上席研究フェローで、中ロ関係が専門のイゴール・デニソフも同様に、中ロがつねに一体となって行動するわけではなく、ウクライナ問題に対する両国の姿勢の違いが浮き彫りになっていると指摘する[Igor Denisov, “‘No Limits’? Understanding China’s Engagement With Russia on Ukraine(「限界はない」? ウクライナ問題での中国の対露関与を理解する)”, The Diplomat, March24, 2022]。2月4日のプーチン大統領による北京訪問の際に発表された中ロ首脳会談の共同声明は、両国間の「友情に限界はない」と述べた。だが、共同声明で記されているような、両国が緊密な提携をする対象としての「共同隣接地域」は中央アジアを指しており、ウクライナはその地域に含まれない。また「限界がない」のはあくまで友情の領域であり、必ずしもそれがレアルポリティークの領域で常に適用されるわけではない。アメリカとの戦略的対立にまでこの「友情」が発展すれば両国の提携は強まるだろうが、地域紛争での提携にとどまる限りでは必ずしも両国が思考や行動を一致させるとは限らない、とする。……