3.拡大するロシアの軍事行動への不安
■「中国とともに世界を先導する」との意識
そもそもなぜロシアは、自らの国際的孤立を招くことになるようなウクライナへの軍事侵攻を決断したのであろうか。
カーネギー国際平和財団のモスクワセンター上席研究員のアレクサンドル・ガブエフは、2014年のクリミア危機が大きな転換点であったと、以下のように説明する[Alexander Gabuev, “Alexander Gabuev writes from Moscow on why Vladimir Putin and his entourage want war(プーチン大統領とその側近が戦争を望む理由について、モスクワからアレクサンドル・ガブエフが寄稿)”, The Economist, February 19, 2022]。
ロシアは、2014年にウクライナ領であったクリミアを併合した。それによって国際的な非難を受け、孤立を招く結果となった。だが、そのような孤立に耐え忍んできたことで、皮肉にもむしろ国際社会から切り離されてもある程度機能する自立的な経済が確立された。また、現在のクレムリンを動かしているのが、プーチン大統領の長年の側近である諜報部門出身者たちであり、彼らは対外強硬路線に傾斜する傾向が見られる。彼らの多くが、アメリカが主導する西側民主主義諸国は、様々な失敗や挫折を続け、多文化主義や少数民族保護によって国内社会の混乱が極まっていると認識している。むしろ、伝統的な価値を重視する権威主義体制へとパワー・シフトが続き、多極化に向かっている世界秩序の中で、活力があるロシアこそが中国とともに世界を先導するはずだと確信している。
ガブエフは、すでに8年間続いてきた経済制裁によって、ロシアの政治指導部は自国が経済制裁に耐えうる強靱な体制を確立したと認識しており、皮肉にもそのことが今回のような冒険主義的な決断を促し、国際的孤立を怖れぬ態度に帰結したと論じる。ちなみに、ロシア政府はウクライナ戦争の勃発後にカーネギー・モスクワセンターの閉鎖を決定し、ガブエフもそこを離れることになった。これによって、西側世界とロシアの国際政治の専門家を繋ぐ重要な橋渡しの場が失われることになるだろう。……