政治

アメリカ保守主義が陥った機能不全:その概観とささやかな提案(上)

2022年5月31日

アメリカの保守主義は今ほど各派閥間での不和や激しい反目があったことはないと、米歴史家・思想史家のジョージ・ナッシュ氏は指摘する。なぜ、保守主義運動はここに至ったのか、そして今後どのような道を歩んでいくのか。「キャンセル・カルチャー」に代表される左派の過激化とトランピズムの攻撃に晒される現状を保守側からの視線で捉える。(後編はこちらのリンク先からお読みください)

 2022年現在、アメリカの保守派の多くは、自分たちがかつてないほどの四面楚歌の状態に陥り後退しているのは間違いないと見て、深刻な不安を抱いている。米国中で、連邦政府の官僚機構、ニュースメディア、エンターテイメント産業、巨大IT企業、幼稚園から大学院までの教育システムは、保守思想を敵対視するような者たちに牛耳られているからだ。ソーシャルメディアやその他の分野では、アイデンティティ政治と「ウォーク(左翼意識への目覚め)」のイデオロギーが君臨し、左翼の検閲としかいいようのない「キャンセル・カルチャー」が何のとがめも受けずまかり通っているように見える。

 保守派の敗北感に拍車をかけているのは、「アメリカの市民宗教」と学者らが呼ぶものの影響力が低下していることである。長年にわたり、米国の保守派はほぼ誰もが、わが国の歩んできた道は全体として成功の物語であり、その中心には個人の自由、政府権力の制限、憲法と独立宣言によって具現化された政治哲学があり、それらを信奉してきたからだと思ってきた。今日、多くのアメリカ人にとって、この物語はもはや魅力的なものではなくなっている。その代わりに、多くの国民が、アメリカの歩んだ道の本質は「自由」ではなく「奴隷制」であり、現在でもわが国は「制度的人種差別」に陥ったままだと告げられているのである。そこから、厄介な問い掛けが出てくる。自分たちの政治的遺産を批判し、軽蔑するように教えられた若い世代が増えだしている中で、その政治的遺産を擁護する保守派は彼らと話が通じるのだろうか。かつて強力だったレーガン流の「アメリカ例外主義」の論理は、いまも説得力を持っているのだろうか。

 保守主義運動そのものが混乱しているとの認識が広がっていることも、保守派の不安を高めている。もちろん、保守主義は近年の歴史において、戦略、戦術、主要原理について激しい内部不一致を経て、成熟してきた。しかし、今ほど保守派内の各派閥間で不和や激しい反目があったことはない。

 なぜ、保守主義運動はここに至ったのか、そして今後どのような道を歩んでいくのか。……

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