2022年6月末のマドリードNATO首脳会合で採択された新たな戦略概念の焦点は対露抑止・防衛態勢の強化である。「前方防衛」への転換とその背景を検討した(上)を受け、本稿(下)では、それを大枠で支えるNATO全体の即応態勢の強化・拡大、米軍によるさらなるコミットメント、そして、ロシアのさらに先に存在する挑戦として中国について検討したうえで、最後に、NATOがどこに向かっているのかを考えたい。
即応態勢の強化・拡大:時間を要するプロセスは「中長期のコミットメントの証」
バルト諸国やポーランドといった同盟の東部方面(Eastern flank)へのNATO部隊の増強が今回の対露抑止・防衛態勢強化の目玉だが、それを支えるのはNATO全体としての即応能力である。というのも、いくら前方展開を強化したところで、ロシア軍の侵攻といった大規模有事においては、NATO各国からの増派が必要になるからである。
今回NATOは、最大4万名とされてきた従来のNATO即応部隊(NRF)を抜本的に改編し、新たな「NATOフォースモデル(NATO Force Model)」を採択した。それによると基本的な兵力は30万名で、そのうち10万名を10日で展開可能な即応態勢に、残り20万名を10日から30日以内の即応態勢に置くという。さらに、50万名を30日から180日での展開が可能な状態に置くことが想定されている。イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、2023年にもこの態勢を開始すると述べている。
首脳会合前にこの30万名という数字が最初に報じられた際は、 NRFが4万名から30万名に7.5倍に増強されるというイメージだったため、現実的ではないのではないかとの懐疑的見方が強かった。ただし、実際に発表されたものは現行のNRFを大幅拡大するというよりは、新たなコンセプトのもとに整理し直すということである。欧州のNATO加盟国は合計で250万名以上の兵力を有していることを考えれば、そのうちの10万名ないし30万名を上記のような即応態勢に置くこと自体は、全く不可能なことではないのだろう。……