政治

英トラス新政権の船出――ジョンソンなきジョンソン路線か

2022年9月7日

YouGovの調査によれば「ジョンソン辞任は間違い」だとした保守党員は55%に上るという。最後まで前任者に忠実だったことがトラス新党首の勝因であり、その政策は概ね「ジョンソン路線」を引き継ぐものになるだろう。ただし、よくも悪くもジョンソン氏個人のキャラクターに依存してきたその路線を、当人抜きで維持するのは不可能に見える。

 ボリス・ジョンソン英首相の辞任表明にともなう英保守党党首選挙の党員による決選投票は、9月5日に結果が発表され、大方の予想どおりリズ・トラス外相が勝利した。翌9月  6日に首相に正式に就任した。投票結果は、トラス氏が8万1326票、対立候補のリシ・スナク前財務相が6万399票だった。トラスの得票率は約57%であり、各種の事前調査に比べると若干低かった

 ただし、トラス新政権の船出は順風満帆とはいい難い。それどころか、空前の危機的状況だ。ロシアによるウクライナ侵略が続くなかで、エネルギー価格の高騰による「生活費危機(cost of living crisis)」は厳しくなる一方である。トラス政権は英国をいかに率いることになるのか。本稿では、その前提となるジョンソンの退場の背景と影響を振り返ったうえで、トラス政権の課題を分析する。

「勝てる首相」ジョンソンの退場

 今回の党首選において最も重要な争点になったのは、生活費危機と呼ばれる物価高、インフレへの対策だった。しかし、通奏低音のように問われ続けたのは、やはり現職のボリス・ジョンソンの功罪であり、ジョンソン政権をどのように評価するのかだった。これは当然のことだろう。というのも、ジョンソン政権が正常に機能していれば、このタイミングで党首選を実施する必要がなかったからである。

 ジョンソン辞任の背景はさまざまだ。2019年12月の総選挙に圧勝し、EU(欧州連合)離脱(Brexit)を成し遂げたジョンソンは、保守党界隈では、型破りではあっても突破力・実行力のある指導者であり、個々の議員にとっては選挙に「勝てる首相」であった。しかし新型コロナウイルス感染症への対応として政府が厳しいロックダウンを実施しているさなか、首相官邸ではパーティが繰り返されていたことが判明した。「パーティゲート」である。加えて、クリス・ピンチャー議員による男性議員などへの痴漢行為に関して、首相が過去の経緯を把握しつつ院内副幹事長という要職に起用したのか否かについての説明が二転三転した。……

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