ロシアが核兵器を使うのではないかとの懸念が注目を集めている。ロシア軍がウクライナで劣勢になるなか、形勢逆転、あるいは自国に有利な条件をウクライナに押し付けることを狙って核兵器の使用に踏み切るのではないかというのである。
この問題が一気に注目されるとともに、危機を煽るような言説も増えている。そこで以下では、米国およびNATO(北大西洋条約機構)とロシアとの間の核抑止という観点から、どのようなときに核兵器が使われてしまうのか、いかなる使用が考えられるのか、そしてそれを避けるためには何が必要なのかなどを、順に検討していきたい。
端的にいえば、核兵器が使われるのは抑止が崩れたときである。そうならないように努力をするのが核抑止だ。核抑止の基本は報復の警告であり、この信憑性がすべての鍵を握る。それゆえ、これはウクライナの問題を超え、米国とNATOの課題であり、正念場を迎えている。
なお、ここで抑止を軸にした議論をするにあたっては、米国とNATOに加えてロシアも合理的なアクターだという前提が存在する。これを全面的に否定した場合、抑止は成立しない可能性がある。これは抑止論の弱点だ。しかし、少なくとも核兵器に関して現在のロシアが理性の通じない存在になった証拠はない。これまでの米国やNATOによる対露抑止は効いてきたと仮定して、以下の議論を進めることにしよう。……