ロシアによるウクライナ侵攻が、ロシア、ウクライナ両国を超えて最も大きな影響を及ぼしているのはエネルギーの分野だろう。もっとも、国際的なエネルギー価格が戦争以前から上昇基調だったことは事実であるし、原油や天然ガスの市場価格は、需給バランスとともに世界経済の景気観測などに大きく規定されるとも指摘されている。その観点で、2022年2月の開戦以降のエネルギー価格高騰の原因をすべてウクライナ侵攻に帰するわけにはいかない。それでも、特に欧州に関する限り、ロシア・ウクライナ戦争がエネルギー危機を深刻化させている最大の原因であることは明白だ。
ただし、このエネルギー危機をいかに捉えるかは、容易な問題ではない。まず、焦点の一つは天然ガスだが、それはまだEU(欧州連合)を含め、米欧日などの対露制裁の対象になっていない。輸出の削減や停止を行っているのはロシア側だ。
今回のエネルギー危機の根底に存在するのは、エネルギー分野における欧州の対露依存である。そのため、構図としてはロシアが圧倒的に強い立場にいるようにみえる。しかし、欧州がエネルギーを欲しているとすれば、ロシアはそれを輸出して得られる収入を欲している。そして欧州は化石燃料における「脱ロシア」化を進めている。これが今回の戦争の終結後も続くとすれば、ロシアにとって、エネルギーの対欧州輸出によって収入を確保するという経済モデルは転換を余儀なくされる。あるいは、そのモデルはすでに崩壊したといってよい。影響は中長期的なものとなる。
これらだけを考えても、欧州とロシアの間の力関係が一方通行でないことは明らかだろう。そこで以下では、エネルギーをめぐる欧州とロシアとの関係の多面性に着目し、欧州エネルギー危機の構図を、外交・安全保障の観点で読み解いていきたい。……