政治

「日本の農業は過保護」という嘘

2022年12月19日


<span>「日本の農業は過保護」という嘘</span>

TPPをはじめとする貿易自由化交渉の度に、農業部門の非効率性がやり玉に挙げられてきた。しかし日本の農産物関税率も、農業所得に占める補助金の割合も、国際的にはきわめて低いのが実態だ。世界の食料供給システムが混乱するいま、日本の食料安全保障を危機に晒している「自由貿易の優等生のフリ」という戦略なき思考停止を直視する必要がある。

貿易自由化の「生贄」にされてきた農業

 日本は、経済産業省などの主導のもと、長年にわたって自動車の輸出を推進してきた。そうして製造業で儲けるかわりに、自由貿易交渉においては、いわば「生贄」として農産物の関税撤廃を差し出す、という経済政策を進めてきた。「食料なんて金を出せば買える」という考え方が、あたかも正論のごとく唱えられた結果、日本国内での農業生産はないがしろにされてきた。

 近年、むしろそうした構図が強まっている。各省庁間のパワー・バランスが完全に崩れ、農林水産省の力が削がれる一方、経産省が官邸を掌握した第2次安倍晋三政権時の2018年9月27日、日米貿易交渉の構図について筆者は某紙に次のように書いた。「今は“経産省政権”ですから自分たちが所管する自動車(天下り先)の25%の追加関税や輸出数量制限は絶対に阻止したい。代わりに農業が犠牲になるのです」。こうした構造は内閣が交代しても継続している。

 ある意味、この政策は狙い通りの効果をあげているとも言える。政府が使っている計量モデルを筆者の研究室で再現し、貿易自由化による自動車の利益と農業の損失を計算してみた。すると、TPP(環太平洋連携協定)やRCEP(東アジア地域の包括的経済連携)などの大きな貿易自由協定を一つ決めるごとに、自動車産業は約3兆円儲かり、農業は約6000億~1兆数千億円もの損失に見舞われていた。まさに農業を「生贄」にして自動車が儲かる構造があることが見事に示されたのである(表1参照)。

表1

  こうした政策のために、農業は過保護だから、規制を撤廃し、貿易自由化という「ショック療法」で競争力を強化するしかない、という説明がなされてきた。その目論見は成功し、多くの国民がそう信じ込んでいる。……

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