千葉県新松戸駅の改札を出ると、青色の看板にスクリーンが設置された派手な店が目に入る。店の名前は「ローズジャンケンケバブ」。ジャンケンで店主に勝てばケバブが無料で大盛りになるという個性的なサービスで人気のウイグル料理店だ。メニューには、串焼きのケバブや水餃子など中国北西部・新疆ウイグル自治区でよく食べられる料理が並ぶ。
この店を経営しているのは、同自治区タチン(塔城)出身のハリマト・ローズ(49)さん。在日ウイグル人団体・日本ウイグル協会副会長で、現在は妻と子どもたちと一緒に日本で暮らしている。
在日ウイグル人は約2000人いるが、ハリマトさんのように顔や本名を明かして取材に応じられる人は少ない。ウイグル自治区では、2017年頃からウイグル人やカザフ人らに対する弾圧が強化され、中国当局が「再教育施設」と呼ぶ強制収容所には最大200万人のウイグル人が収監されていると言われる。女性への不妊手術、収容所内での拷問・レイプ、不当な拘束、強制労働、強制結婚など、ウイグル人に対する人権侵害は深刻さを増している。
沈黙を続けても何も変わらない
私は大学在学中の2012年にウイグル自治区の首府ウルムチ市を訪れ、現地のウイグル人家族と3日ほど過ごしたが、その家族とはもう6年以上連絡が取れていない。せめて安否だけでも確かめたいところだが、在日ウイグル人からは「絶対に連絡はしない方がいい」と止められる。海外から電話がかかってきたというだけで、当局がウイグル人を拘束するのに十分な理由になり得るというのだ。
この問題を自分の言葉で伝えたいという思いが募る一方、そうすることでその家族に影響が及ぶのではないかという躊躇もあり、これまで取材は控えてきた。11年前に私を受け入れてもてなしてくれた家族が、私のせいで拘束されたり苦しんだりするのは耐え難かった。
しかし、昨年11月、ウルムチ市のアパートで発生した火災を機に「白紙運動」が起こり、日本でも同様のデモが行われた。その中で、家族の安否が分からぬまま、「沈黙を続けても何も変わらない」としてウイグル問題を訴え続けるハリマトさんや他のウイグル人らを見て、背中を押された。
11月30日、新宿駅前で行われたデモには数百人が集結していた。キャンドルに火を灯して犠牲者を追悼するグループのほか、中国当局のゼロコロナ政策や人権問題について批判の声を上げる若者、さらには中国共産党や習近平国家主席を罵倒する者もいた。ウイグル人犠牲者の追悼デモであるにもかかわらず、現場に集まっていたのは在日中国人(漢族)の若者が大半で、ウイグル人の姿はほとんど見られなかった。
私はその日の夜、ハリマトさんの店を初めて訪れた。デモの写真を見せると、ハリマトさんはこう話した。
「このようなデモに参加できるウイグル人はほとんどいない。この人たち(漢族の参加者ら)も、デモ参加によって母国の家族が捕まる危険性はもちろんあるが、われわれの家族はすでに捕まっているか、少なくとも監視下にある。次の日にはこのような行動への報復として家族が殺される可能性もある」
ウルムチ騒乱で様変わりした故郷
8人兄弟の4男として生まれたハリマトさんは、2002年に地元タチンで結婚。2005年に東京電機大学の大学院に進学するため来日した。もともと建設系の会社で測量士として勤務していたが、職員のほとんどが漢族だったためウイグル人には昇格が難しいと感じ、日本への留学を決意したのだという。
ハリマトさんが大学院に通っている間の2009年7月5日、ウルムチ市では大規模な騒乱が勃発した。広東省の工場でウイグル人労働者が襲撃され死亡したことを受け、同市で政府の対応を非難する抗議デモが行われた。その参加者らに警察が武力行使したことで騒乱と化し、公式発表によると197人が死亡したとされている。
この事件から3年後の2012年、博士号を取得したハリマトさんは中国に帰国した。しかし、町の様子はすっかり変わっていた。以前と比べ活気が減り、町内を少し移動するだけでも職務質問を受けるなど、ウイグル人への弾圧や監視が明らかに厳しくなっていたという。……