政治

【Column 】ついに進展した「北アイルランド通商問題」の地経学的意味

2023年3月17日

「ブレグジット後」の懸案だった北アイルランドの通商問題をめぐり、イギリスとEU(欧州連合)が新たな合意に至った。グレートブリテン島から北アイルランドに持ち込まれる物品に関して、北アイルランドに留まる場合は手続きが簡略化されるという内容だ。これを機にイギリスとEUの関係が改善することは、西側とロシア、中国の対立が深まる今、地経学的に重要だ。

 

[ロンドン発(ロイター)]もし世界がIMF(国際通貨基金)の言う「地経学的分断」に直面しているならば、イギリスにとって北アイルランドの通商問題の進展は、世間の受け止め以上に大きな救いになるかもしれない。

 リシ・スナク英首相とウルズラ・フォン・デア・ライエンEU委員長は2月27日、懸案だった北アイルランドの通商ルールに関して合意に至った。イギリスはEU離脱に際して、北アイルランドとアイルランドの間に「目に見える国境」ができないよう、北アイルランドにEUの通商ルールを適用する「北アイルランド議定書」を結んだが、グレートブリテン島と北アイルランド間での商取引が煩雑になるなどの問題が生じていた。そこで今回、EUとの間で「ウィンザー・フレームワーク」という新たな枠組みを結び、北アイルランドへ持ち込まれる物品に関して、北アイルランドに留まるものとEU向けのものを分けて手続きを行い、北アイルランドに留まるものに関する手続きを簡略化することになった。

 まだ英議会の主要政党と北アイルランドのすべてのグループによる承認が必要だが、政界や金融関係者からは今回の合意に驚きが広がった。

 ただ、ブレグジット国民投票から約7年、離脱交渉の過程で混乱を極めた市場と、ブレグジットと聞くだけで目がどんよりする投資家やアナリストたちにとっては、「ウィンザー・フレームワーク」よりも2桁のインフレ、エネルギー、昨年スナク政権が減税策を撤回したことで上がった税金、そして労働争議の広がりといった他の喫緊の課題の方が重要のようだ。

 この冬はイギリスにとって暗い冬だった。1月末に発表されたIMFの世界経済見通しで、イギリスはG7の中で唯一のマイナス成長になると予測されたのも驚きではない。 

 UBSの首席投資責任者マーク・ハーフェレは、短期的には「金利の上昇、増税、マクロの向かい風といった要素に影響されやすい経済状況が続く」と見る。INGのストラテジストたちも、「ウィンザー・フレームワークよりも金利差の方が、ポンドを動かす要因になる」と結論づける。

 しかし、今週ポンドは米ドルに対して1.2%、ユーロに対して0.7%上昇した。政治、財政、債券市場での混乱の1年と暗い冬を経て、ようやく前向きな兆しが見えたことでポンドが上昇したのは間違いない。

 昨年9月にトラス前政権が発表した大型経済政策を受けて急落したポンドは、新たに就任したジェレミー・ハント財務相とイングランド銀行が英国債市場の安定を取り戻して最悪の状況を脱してから復活したが、ポンドの貿易加重通貨指数は2020年のEU離脱以降、3%以上下落したままで、2016年の国民投票以前に比べると10%低い。30年平均と比べても13%も低い。国際株、商品株、金融株などの優良銘柄からなるFTSE100種総合株価指数は今年最高を記録したものの、アメリカのS&P500と比べると、2020年以降、ドルベースで25%アンダーパフォームしている。国内企業中心の中型株で構成されるFTSE250種総合株価指数は、この期間に6%下落した。……

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