政治

台湾有事に豪州は関与するのか?――求められる「静かな抑止力」

2023年6月9日

過去、英国や米国が主導するほぼ全ての戦争に参加してきた豪州だが、台湾有事への派兵については世論が割れている。現在の労働党政権は対中関係の改善を図るものの、同国の安全保障にとって米豪同盟が「生命線」である以上、有事に何もしないことは「考えられない」。実際の軍事的貢献には多様なオプションが考えられるが、現時点で求められるのは日米豪の相互運用性を高めることによる「静かな抑止力」の強化である。

 

 台湾海峡の緊張が高まるにつれ、豪州の中でも対応をめぐり議論が行われている。前保守連合政権時代の国防大臣であったピーター・ダットンは、台湾をめぐるいかなる米中間の紛争においても、豪州が米国を支援しないことは「考えられない(inconceivable)」と述べ、物議を醸した。これに対し、当時労働党の影の外相であったペニー・ウォン現外相は、ダットン国防相の発言は豪州の伝統的な「曖昧路線」からの逸脱であり、いたずらに緊張を高めるものとして厳しく非難した。実際、2022年5月におよそ9年ぶりに政権に返り咲いて以来、労働党政権は対中関係の改善を図るとともに、台湾問題に関する発言をトーン・ダウンさせている。果たして、実際に台湾海峡で有事が勃発した場合、豪州は日本とともに米国の介入を支援するのだろうか?

豪州にとっての台湾

 そのことを考えるために、まず豪州にとっての台湾の位置付けを確認したい。歴史的にみて、豪州が台湾の防衛に熱心であったとは言い難い。1954年から55年にかけて勃発した第一次台湾海峡危機の際、金門・馬祖両島の防衛を主張する米国に対し、当時の豪政府は英国とともに反対し、また「台湾地域」の軍事任務がANZUS条約(豪州、ニュージーランドおよびアメリカ合衆国の軍事同盟条約)の適用外であるとの見方を示した。1972年2月に米中和解が行われると、同年12月に誕生した労働党政権は即座に中国との国交を正常化し、台湾と断交した。冷戦後も、2004年に豪州の外相が中国を訪問した際、台湾有事が自動的にANZUS条約の発動に結びつくものではないとの趣旨の発言を行い、米側の不評を買ったこともある。

 その一方で、日本と同じように豪州は台湾との非公式なチャンネルによる貿易や人的交流を維持してきた。豪州にとって台湾は7番目の貿易相手国であり、輸出相手国としては5番目の位置にある(2021/22会計年度時点)。豪州には豪州国籍保有者を含め、台湾で生を受けた人が5万人近く在住し、コロナ前には毎年20万人近い台湾人が豪州を短期訪問していた。台湾にも、2023年4月時点でおよそ1000人の豪州人が居住している。……

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