- イスラエル社会の深淵「徴兵制」の今(前編)|兵役拒否というタブーに挑む若者たち
兵役はほとんどのイスラエル市民が一様に経験する通過儀礼となっているため、軍でどのような実績を残したか、どの部隊に所属していたかは、その後の人生を大きく左右する。
今でこそ、イスラエルが「スタートアップ国家」として知られるようになり、「8200部隊」や「タルピオット」などのエリート・インテリジェンス部隊の名前を聞いたことがある人も増えたかもしれない。エリート・インテリジェンス部隊の出身者が立ち上げたスタートアップ企業というだけで、初期の資金調達が実現することも稀ではなく、エリート部隊出身者への社会的な信頼度は高い。
伝統的に社会から多くの尊敬を集めてきたのは、「サエレト・マトカル」や「シャイェテット13」などのエリート特殊戦闘部隊だ。イスラエル人客を乗せた航空機がハイジャックされれば、アフリカのウガンダに急行し、救出作戦を展開(「エンテベ空港奇襲作戦」)。テロリストが隣国にいれば、暗闇の中、海上から密かに上陸して暗殺作戦を実施、国家の脅威を排除する(「若き日の青春作戦」)。国家の安全保障のため、まさに“ミッション・インポッシブル”を担ってきたのが、こうしたエリート部隊であり、そのヒロイズムは社会の中でも語り継がれている。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はサエレト・マトカル出身だった。兄のヨナタン氏も同じくマトカルの戦闘員だったが、エンテベ空港の作戦で殉職し、首相自身、演説などでその話を度々持ち出している。
「国民のためなら、国家はいかなる犠牲も払う」。国外で国民が困難に巻き込まれればすかさず救助を送り、ハマスに人質が囚われれば、人質1人のために1000人のパレスチナ人を刑務所から解放する。この姿勢はいつしか国家と国民の間の「社会契約」となったが、今回人質解放が遅れている状況を前に、その契約が崩れ去りつつあると口にする国民は少なくない。これはまた別の機会に取り上げたい。……