政治

イスラエル社会の深淵「徴兵制」の今(後編)|「10月7日」で変わった世論、しかし甦る経済の不安

2024年3月29日


<span>イスラエル社会の深淵「徴兵制」の今(後編)|「10月7日」で変わった世論、しかし甦る経済の不安</span>
ガザ地区周辺で女性の歩兵戦闘員を訪問したネタニヤフ首相(2023年11月13日 撮影:Kobi Gideon, GPO)

イスラエルの若者が積極的に徴兵に応じてきた理由のひとつに、軍を通じて国民が階層化される社会システムがある。特にインテリジェンスや特殊作戦に従事する「エリート部隊」の出身者は、社会的な尊敬を得られる上、除隊後のビジネスで有利になることも珍しくない。そうした軍に対する厚い信頼と敬意は近年、アラブ諸国との緊張緩和や経済発展で徐々に相対化されてきたのだが、ハマスとの戦闘によって再び揺り戻しが起きている。

  • イスラエル社会の深淵「徴兵制」の今(前編)|兵役拒否というタブーに挑む若者たち

 兵役はほとんどのイスラエル市民が一様に経験する通過儀礼となっているため、軍でどのような実績を残したか、どの部隊に所属していたかは、その後の人生を大きく左右する。

 今でこそ、イスラエルが「スタートアップ国家」として知られるようになり、「8200部隊」や「タルピオット」などのエリート・インテリジェンス部隊の名前を聞いたことがある人も増えたかもしれない。エリート・インテリジェンス部隊の出身者が立ち上げたスタートアップ企業というだけで、初期の資金調達が実現することも稀ではなく、エリート部隊出身者への社会的な信頼度は高い。

 伝統的に社会から多くの尊敬を集めてきたのは、「サエレト・マトカル」や「シャイェテット13」などのエリート特殊戦闘部隊だ。イスラエル人客を乗せた航空機がハイジャックされれば、アフリカのウガンダに急行し、救出作戦を展開(「エンテベ空港奇襲作戦」)。テロリストが隣国にいれば、暗闇の中、海上から密かに上陸して暗殺作戦を実施、国家の脅威を排除する(「若き日の青春作戦」)。国家の安全保障のため、まさに“ミッション・インポッシブル”を担ってきたのが、こうしたエリート部隊であり、そのヒロイズムは社会の中でも語り継がれている。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はサエレト・マトカル出身だった。兄のヨナタン氏も同じくマトカルの戦闘員だったが、エンテベ空港の作戦で殉職し、首相自身、演説などでその話を度々持ち出している。

「国民のためなら、国家はいかなる犠牲も払う」。国外で国民が困難に巻き込まれればすかさず救助を送り、ハマスに人質が囚われれば、人質1人のために1000人のパレスチナ人を刑務所から解放する。この姿勢はいつしか国家と国民の間の「社会契約」となったが、今回人質解放が遅れている状況を前に、その契約が崩れ去りつつあると口にする国民は少なくない。これはまた別の機会に取り上げたい。……

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