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27.0

人民日報紙面を賑わす外交成果の「正味な話」

2024年5月7日

習近平主席がこの1年に直接関与した活動のほぼ半分は外交であり、外交部門トップ・王毅政治局委員の動静も大きく報道されている。政権はこれらの上首尾を強調するが、4月末のブリンケン米国務長官訪中も本質的な関係改善につながるとは言い難い。華々しい報道は内政が求心力維持に窮していることの裏返しだ。だが、「習近平外交思想」が続く限り現実には外交も現状維持以外に道はなく、この求心力強化は戦法として破綻する。

 中国はますます見えにくい国になった。胡錦濤の時代までは、これは本当だろうと思うものからタクシーの運転手の与太話まで、「街の噂」は手軽に拾えた。習近平時代になり、情報管理は次第に厳しくなり、今や「街の噂」も外国人にはなかなか届かない。

 だが世の中良くしたもので、情報が多いから読みは正しいということには必ずしもならない。私の外交官時代、収集する情報量は米国が圧倒的に多かったが、判断、つまり情報分析は英国の方が優れていた。そのことを英国の外交官に話すと、ニヤッとしながら、その分析結果を、米国しか持たない生の情報で英国が必要とするものと交換していると言っていた。10年前に亡くなられた岡崎久彦氏も公開情報の分析が基本だし、特に共産圏については公文書を徹底的に読み込むことが王道だと書いておられる。全く同感だ。

 そういうことで中国共産党の機関紙である人民日報はちゃんと読まないといけない。一部例外はあるが、党と政府の重要な文書は必ず掲載されるし、紙面の作り方を見ることで党中央が何を重視し、何を避けようとしているのかということまで読み取ることが出来る。つまり人民日報を眼光紙背に徹して読むことにより、共産党指導部が、どのように国政を運営し、どの方向に党員と国民を導こうとしているかが見えてくるのだ。

人民日報1面を埋めた王毅の記者会見

 そういう目で眺めていくと、昨年以来、外交が特に重視されていることが分かる。まず、この1年間、習近平主席が直接関与した活動のほぼ半分が対外活動であった。しかも米国だけではなく、ASEAN(東南アジア諸国連合)や中央アジアの近隣諸国、さらにはアフリカや中南米、太平洋やインド洋の小さな国々にまで首脳外交を繰り広げている。

 中国語表記なので国名の確認を要する国も多い。23年5月にはコンゴ民主共和国大統領を国賓として迎え、23年10月には一帯一路国際協力サミットにコンゴ人民共和国の大統領を招いている。おかげでザイール共和国がコンゴ民主共和国(首都・キンシャサ)に、コンゴ人民共和国がコンゴ共和国(首都・ブラザヴィル)に国名を変えたことも学んだ。資源が狙いだろうが、習近平の中国は、それくらい丁寧に招待外交を展開しているということだ。しかも国賓で招いた首脳とは会談だけではなく、歓迎式典も歓迎宴も律儀にこなしている。その数も多い。

 次に、外交そのものが重視されているという点だ。王毅政治局委員は、党中央外事工作委員会弁公室主任を務めるが、秦剛外交部長が失脚した後は、外交部長を兼務している。すでに70歳を超えており、体力的にもよく持つなと思うくらいだが、世界を股にかけて正に八面六碑の大活躍をしている。しかもその活動は中国国内で大きく報道されている。習近平主席の活動が大々的に報道されるのは中国では当たり前のことだが、王毅外交部長の活動にもハイライトが当たっているのだ。

 その極めつけが、本年3月の全国人民代表大会の際、王毅外交部長の記者会見だけが人民日報の1面をすべて使って詳しく報道されたことだ。例年は閉幕後に行われてきた総理会見がなくなり話題となったが、李強総理以外の重要経済閣僚は会見している。王毅外交部長の特別扱いは明白だろう。会見の現場でも従来行われていた英語の同時通訳がなくなり、後刻、正式の英訳が出されたという。それほどに気を使う、人民日報に掲載されることを想定した記者会見だったということである。つまり習近平政権は、外交の成果を意識的に強調し、外交は上手く行っていることを党員や国民にすり込もうとしているのだ。

米中はプロセス管理に注力しているのが現状

 一方で、これだけ活発な外交が、実際にどのくらいの成果を上げているかとなると甚だ心許ない。そもそもいまグローバルサウスと呼ばれたり、大昔は非同盟諸国と呼ばれたりした国々は、どの大国の陣営にも属さないのが最大の特徴であり、自国の利益に従い行動する。米国に付き従うこともないが、当然、中国のグループに入ることもない。中国は欧州や東南アジアに対する外交も強化しているし、対米関係の改善にも注力している。だが具体的な成果は上がっていない。客観的に見て、悪化してささくれ立っていた関係が、かなり穏やかなものになってきたというだけであり、本質的な改善ではない。……

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