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「お金は『使う』もの」「BtoCに集中する意義」 在任20年の楽天証券社長が明かす「ネット証券」経営の本質

2026年7月3日


<span>「お金は『使う』もの」「BtoCに集中する意義」 在任20年の楽天証券社長が明かす「ネット証券」経営の本質</span>
楽天証券の楠雄治社長(左)と経済アナリストの森永康平氏(右)

「新NISA」を機に、ネット証券を利用した投資ブームが訪れている。その牽引役ともいえる楽天証券の口座数は今や1400万。歴史的な高値を更新する日経平均株価、昨年に社会問題化した口座の乗っ取り、そして投資家にとっての必読本まで、経済アナリストの森永康平氏が、同社を20年率いる楠雄治社長に直撃した。
※本稿は、週刊新潮2026年7月2日号の対談企画「経済アナリスト森永康平のビジネスリーダーにドロップキック!」の記事です。

進む投資の「大衆化」

森永 イベントなどでお会いする機会は少なくないですが、こうして対談という形で社長とお話しするのは初めてですね。

 改まって向かい合うのも変な感じがしますね。楽天証券で働いてくれていたのは、もうだいぶ前になりますか。

森永 そうですね。10年ほど前に1年強、御社に在籍していました。

 あの頃は、まさかこんな日本株の水準を見るとは思わなかった。

森永 本当ですね。日経平均が歴史的な高値を更新していますが、楠社長の目にはどう映っていますか。

 今上がっている要因は、ほぼ半導体とAIです。日経平均は半導体銘柄のウエイトが大きいので一気に上がる。日経平均とTOPIX(東証株価指数)との比率を表すNT倍率も最高水準に達して、ギャップが広がりすぎていますよね。

森永 確かに日経平均自体、銘柄構成の偏りでいびつだと指摘されて久しいです。

 ITバブルの頃から新興・ハイテク銘柄のウエイトを上げすぎているように感じます。ある程度の調整はあってしかるべきだし、そのほうが相場としても長続きしますよね。

森永 そんな相場の高騰もあって、メディアでは「投資ブーム」と盛んに喧伝されています。

 「ブーム」とは言いすぎかもしれませんが、振り返ってみると2014年にNISA、18年につみたてNISAが始まって、さらに19年に金融庁の「老後資金2000万円問題」のレポートが出たことで、一気に火がつきました。「将来の年金が減るのなら、自分たちで何とかしなきゃ」という意識が若い人を中心にぐっと高まった。

森永 24年からは新NISAで月の非課税枠が約3.3万円から10万円まで拡大し、非課税期間も無期限とされました。

 非課税枠を活用して将来に備えるのが、若い世代の標準的な行動として定着した印象ですね。

森永 ブームというより「投資するのは当たり前」のフェーズに入った。

 そうですね。ここ数年で「投資の大衆化」が進みました。昨年3~4月にトランプ関税ショックで世界的に株価がドーンと下がった時も、実は積み立ての解約はほとんど出なかったんです。「長期で運用したほうが得だ」という考え方がだいぶ浸透してきました。

森永 これだけ投資の大衆化が進むと、口座を獲得する手法も、私がいた10年前と比べると随分変わったのではないですか。

 全然違いますね。かつてはデイトレーダー、つまり売買を頻繁に繰り返すお客様をいかに確保するかの勝負だった。今は一般のお客様が安心して長く投資できるサービスを充実させ、それをどうアピールするかに、完全にシフトしました。

森永 御社は楽天グループの傘下にあります。その意味ではグループとのシナジーも働くようになったのでは。

 その通りで、以前は楽天市場で買い物をして、ポイントを貯めている「普通の人たち」を投資の世界に引き込むのは極めて難易度の高い課題でした。

森永 それがNISAをきっかけに「普通の人たち」との接点ができた。

 楽天カード決済での積み立てや投信の楽天ポイント還元など、グループの強みをようやく証券にもつなげられるようになりました。新規流入が一気に加速して、大きな転換点になりましたね。

リテールに集中する意義

森永 国内株式の売買手数料無料化も、近年のネット証券業界における大きなトピックですね。

 そうですね。当社とSBI証券が23年秋に開始しました。

森永 私も業界の外から「思い切ったことをしたな」と見ていました。収益面ではかなりの影響があったのではないですか。

 一時的には減りましたが、1年弱で回復しました。無料化に踏み切ったことで自然とお客様が2社に集中するようになってきたところがあります。

森永 でも、証券会社はもともと売買手数料で稼ぐビジネスですよね。無料化によって追いかけるKPI(重要業績評価指標)も変わってきましたか。

 その通りで、以前のKPIは売買代金など取引のボリュームに置かれていました。それが今は、預かり資産残高の方が重要なKPIになってきています。より正確に言うと、当社では手数料ゼロ化に踏み切る前から預かり資産残高を重視していました。投信の信託報酬、外国株や信用取引の収益、為替手数料といった日本株の売買手数料以外の収益源を着実に育ててきた。つまり、無料化に踏み切れるだけの体力をつけていたんです。

森永 業界では、特定の金融機関から独立し、中立な立場で資産運用のアドバイスを行う「独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)」の存在感も大きく増していますね。

 IFAの預かり資産残高は年率20〜30%でコンスタントに伸びていて、当社のIFA経由の預かり資産だけで3兆円近くになっています。

森永 3兆円ですか。それはすごい。

 ネット証券が苦手としていた対面でのアドバイスの領域もIFAを通じてカバーできるようになり、営業チャネルとして確立してきました。

森永 片や、実店舗を持つ伝統的な証券会社は対面営業を縮小させている。彼らから見ると、仲介手数料はネット証券に取られ、対面の手厚さでもIFAにお株を奪われているということになりますよね。

 対面証券は富裕層へのシフトを明確に打ち出しています。マスアフルエント(大衆富裕層、準富裕層)のお客様に営業員をつけてもペイしない、という判断ですね。そこはネット証券がカバーし、富裕層と法人は対面証券が中心、という棲み分けが鮮明になってきました。

森永 そのように業界全体の構図が大きく変わる中で、楽天証券としての戦略の軸はどこに置いていますか。

 当社はあくまで個人のお客様にフォーカスしています。楽天グループ自体も基本的にはBtoCサービスの会社ですからね。個人に特化し続けたことで、口座数も1400万、人口の1割を超える規模にまで増やすことができました。

森永 一方で、伝統的な総合証券は法人と個人の両方を抱えています。

 それは本質的には利益相反が生じているところがありますよね。たとえば法人客の資金調達の事情を優先すれば、その分個人の顧客相手に「ノルマとして売る」といった状況が構造上どうしても出てきてしまう。その点、リテールに集中している当社にはそういうジレンマは一切ありません。個人のお客様が一番良い形で資産運用に取り組んでいけるサービスに磨きをかけるというのが、基本戦略ですね。

口座乗っ取り問題について

森永 御社はみずほ証券と資本業務提携し、同社から49%の出資を受けていますね。それでも、個人本位の姿勢は変わらない。

 変わりません。むしろ、みずほ証券が主幹事の社債、IPO(新規株式公開)などの案件は一定数、当社での販売に割り当ててもらい、あくまで個人のお客様への商品ラインナップの一つとして提供しています。

森永 こうして商品を充実できているのは、みずほ証券と組んだメリットの一つということですね。

 23年には「MiRaIウェルス・パートナーズ」というIFA会社を共同設立しました。みずほ側も従来の証券営業から新しいコンサルティングサービスへの展開を志向して、そのモデルを一緒に作り上げているところです。

森永 みずほとなると伝統ある巨大組織のイメージが強いですが、文化の違いなどは感じませんでしたか。

 やはり大きな会社ですから、物事を進める際に様々な関係部署と調整しなければならなかったりして、スピード感の違いはありますよね。でも大組織だからこその考え方には納得できる部分もあるし、カルチャーギャップが弊害になるようなことはないですよ。

森永 やや耳の痛い話題にも踏み込みます。昨年には日本の証券口座を狙った不正アクセスと「口座乗っ取り」が深刻な問題となりました。海外を拠点に顧客のIDやパスワードを抜き取っていたということですが、この件をどう振り返りますか。

 あの不正アクセス問題の背景には、AIが大きく関わっています。精巧なフィッシングサイトが一気に量産できるようになった上、海外のサイバー犯罪グループにとって参入障壁だった日本語という壁もAIによって崩れてしまった。

森永 被害を受けた顧客に対し、対面証券が全額補償を打ち出す中、御社を含むネット証券は半額補償と対応が分かれましたね。メディアの批判的な論調もありました。

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