軍事力に訴えた懸案解決
現在、国際社会は安全保障環境の急速な変化の時を迎えています。特に大きな要素は、国際社会の安定に寄与してきた国連の安全保障理事国が自ら不安定化を招いていることです。ロシアは2022年にウクライナへ侵攻を始めてから、もう4年が経っています。中国は21世紀に入ってから軍事力の増強を続け、周辺国を軍事力によって威嚇。両国は連携も深化させています。そしてアメリカまでもが、力による現状変更を自ら行なうようになり、国連が象徴する国際法や規範、話し合いに基づく秩序のあり方が崩壊しつつあります。
本来、防衛と外交は国家の両輪であり、互いに補完し合う関係にあります。防衛力は外交力につながり、外交力は防衛力に力を与える。同盟や同志国の連携があることで外交上、有利に事を運べますし、外交がうまく行っていれば防衛における負担を減らすことができます。外交によって周辺国との関係を良好に保っていれば戦争が起こる危険性は低減するという具合に、相互に影響し合うものです。一方を得るために一方を犠牲にしなければならないというものではありません。
しかし今、大国においても国家間における懸案を解決するために軍事力に訴えることに抵抗がなくなってきているのには、二つの理由があるのではないかと考えられます。
一つはアメリカがまさに掲げている自国第一主義的な発想が強まっているからでしょう。これは中国、ロシアにも共通するもので、自国の権益のために軍事力によって周囲を押さえつける姿勢を隠そうともしません。
特にアメリカが、利害が対立する国に対してだけではなく、同盟国や同志国にまで恫喝的な対応を取っているのは残念なことで、これでは軍事や経済、ひいては自由や民主主義といった価値のための結束が保たれなくなってしまいます。
もう一つは、軍事テクノロジーの急速な変化です。ドローンやAI、サイバーなど「新しい戦い方」の技術が急速に向上していることで、非常に短時間のうちに大量の情報を分析し、正確な判断を下すことが可能になりました。それを受けての迅速なアクションも可能になったことが、外交に与えている影響は看過できません。
つまり、軍事テクノロジーの向上により、ピンポイントで相手国の要人や首脳を排除できる状況が整ってしまったことで、外交カードをお互いに出し合って交渉するよりも強力な効果が期待できる、という状況になった。そのため、安易に軍事的手段に頼るようになった面があるのです。
アメリカがイランの最高指導者であるアリ・ハメネイ師を殺害した際には、イラン国内の監視カメラなどの情報を入手し、ハメネイ師の動向や警備担当の動きなどを正確に把握していたために、時間も場所もピンポイントで攻撃することが可能になりました。
民間人の被害を抑えながら的確に高い効果の出る攻撃が可能になったことで、外交で時間をかけて話し合うよりも、手っ取り早く目的を達成することができる、と判断するようになってしまったのです。
また、ウクライナではドローン戦が展開され、その技術も戦略も日々進化と変化を遂げています。
こうした軍事テクノロジーの向上によって出現している「新しい戦い方」への対応は、日本にとっても急務です。「新しい戦い方」という表現を警戒する方もおられるようなのですが、こうした戦い方の変化が外交にも影響を及ぼしている以上、無視するわけにはいきません。