アメリカの民主主義が、1850年代の南北戦争前夜以来、最も重大な試練に直面している。これまでも長い間、党派対立というものが政策をめぐる政治運営の足かせとなってきたが、いまや民主主義の基本原則をめぐる国民の分断を生んでいる。例えば、投票とは誰もが持っている「権利」なのか、選ばれし者だけの「特権」なのか? 投票参加は容易にすべきか厳しくすべきか? 選挙結果を最終的に決着させるのは有権者か為政者か?……といった具合だ。この対立の行方によって、来年の中間選挙で議会の多数派をとる党、そして2024年大統領選挙で誰がホワイトハウスの主となるのかが決まる。
とりわけ日本のような同盟国など世界にとっても、アメリカの民主主義の行く末が与える影響は大きい。“民主的ガバナンスの最高峰”というイメージは、この国のソフトパワーで重要な要素だった。20年前に「ピュー・リサーチ・センター」が行った調査によると、先進国の間で(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、日本、韓国の7カ国)平均47%がアメリカ式民主主義に好感を示し、40%が否定的だった。ところが、トランプ政権はそうしたイメージを悪化させた。ピュー・リサーチの最新の調査では、上記7か国の平均で56%が「かつてアメリカ式民主主義はよいお手本だったが、近年はそうでもない」と答えたのである。日本でも3分の2がそう回答している。
“民主主義再建”が深めた分断
アメリカの目下の課題は国際的なイメージをどう回復させるかだが、より重要なのは、民主主義という仕組みに対する自国民からの信頼を取り戻すことだ。さらに言えば、政府には問題を解決してくれる能力があると信用を得ることでもある。現在、全米各地で進む選挙改革の背景には、国民の無関心がある。2020年大統領選で実際に投票したのは、有権者の3分2だけだった。この100年あまりで最高の投票率だったとはいえ、ドイツやフランス、イギリスなどの国々に遅れをとっている(ただし例外は日本だ。2017年総選挙の投票率はたったの54%であった)。
いまアメリカで起きている“民主主義再建”の闘争だが、その正体は、もっともらしい理屈をつけた党派間の利害闘争だ。民主党側は「基本的人権」だとしてより幅広い投票参加を訴える。これには、投票率が高ければ民主党が選挙に勝つ傾向があるという背景もある。いっぽうで共和党側は、投票は「特権」だと主張して有権者の投票行動を制限しがちである。投票率が低いほど選挙で有利になる傾向が強いのだ。こうした結果、アメリカ国内の分断は深まり、投票権が保証されるどうかは、たまたま住んでいる場所が民主党優勢の「青い州(ブルーステート)」か、共和党優勢の「赤い州(レッドステート)」か、それ次第で変わるという状況にますます陥っている。……