習近平体制は国内の「締め付け」を通り越し、「恐怖による支配」の道を突き進んでいる。電子商取引(Eコマース)大手アリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏へのバッシングに始まった民間プラットフォーマーへの集中攻撃によって、名だたるデジタル企業は制圧され、成長の力となる内部留保の大半を国家に捧げた。共産党への忠誠要求は息苦しいほどに強まり、幼稚園児に愛党が強制され、義務教育での塾は禁止となった。著名俳優が脱税容疑で表舞台からひきずり下ろされ、映像や歌曲には内容の制限がかかる。「坂の上の白い雲」を見つめて成長街道を疾走して来た中国人は今、頭上を覆う不気味な暗雲に首をすくめる。習総書記を陰鬱な統制国家への逆走に突き動かしているものは何か。個人の権力への執着よりも、国民が経済的、知的に充足すればするほど、共産党は不要になるという逆説の未来への不安と焦燥だろう。
「先富論」へのアンチテーゼ
今、中国で起きていることを客観的にみれば、中国を経済大国に押し上げた鄧小平氏の実績の否定のプロセスだろう。習総書記が2012年秋の就任から間もなく始めた「反腐敗」闘争は規模と執拗さの点で従来の汚職追放、整風運動とは一線を画す激しさだった。鄧氏の実利主義を象徴する「黒猫白猫」論を錦の御旗として、経済成長の中で個人利得を膨張させる「黒猫」が多数出現したが、習体制は汚職にまみれた「黒猫」を認めず、清廉潔白な「白猫」だけの社会を目指してきた。この数カ月で突然、復活した「共同富裕」論は、鄧氏が唱えた「先に豊かになった者が後から来る者を助ける」という「先富論」へのアンチテーゼである。中国では先に豊かになった者は後続を助けるどころか、格差は恐ろしいほどに広がったからだ。そして、成功した民間デジタル・プラットフォーマーへの強烈な圧迫と米国の対中包囲網に対抗して打ち出された自主技術開発、中国企業の海外上場の制限などは「改革開放」からの離脱宣言といえる。
先端技術開発の牽引車となり、沿海都市部だけでなく、内陸農村まで全国に商品を届ける体制を構築したアリババや京東(JDドットコム)、拼多多(ピンドゥオドゥオ)などEコマース大手や、庶民の決済手段となったアリペイ、ウィーチャットペイ、コロナ禍でも食事を届け続ける美団などフードデリバリー、必要な時にどこでも車を呼べる配車アプリの滴滴(ディディ)など中国人の生活を便利で豊かにした民間企業群――。実際的に国民の福祉向上に大きく貢献した民間企業を今、共産党は目の敵のように激しく叩く。確かに市場独占による価格操作、中小企業いじめなど弊害は小さくはないが、それは法律の整備や適用を怠った政府の責任でもある。
習政権がアリババやテンセント、美団を叩くのには実は明快な理由がある。共産党が省、市、県、さらに70万にも及ぶ郷鎮(村)まで全国津々浦々に党委員会を張り巡らしながら、アリババや美団のように国民生活を目に見えて改善し、雇用と収入の機会まで与えることが出来ていないからだ。「政治プラットフォーマー」である共産党の民間プラットフォーマーとの競争における“敗北”こそ、苛烈な民間企業バッシングの動機なのである。……