2023年4月24日、豪州政府は、安全保障に関する戦略文書である「国防戦略見直し」報告書を発表した。本報告書は、政府から諮問を受けた独立専門家チームが、豪州が2032-33年までに直面する戦略的課題とこれに対応する戦力態勢を提言したものであり、対外非公表の詳細報告書の公表版という位置付けである。
他方、本報告書は公表後、長射程の精密誘導兵器の取得に注力するということのほか、必ずしも大きな注目を集めているわけではない。同年3月、豪州がこれに先立って米国及び英国と共に発表した攻撃型原子力潜水艦(攻撃原潜)を取得するための安全保障協力枠組みであるAUKUS(オーカス)の具体的計画が大きく取り上げられたのとは対照的であると言える。
しかし、いくらその政治的、軍事的インパクトが大きいとは言え、攻撃原潜という個別兵器の取得がそれを用いた国防戦略よりも先に発表され、またより大きく注目されるというのは、目的の前に手段を議論しているという意味で、一見すると倒錯した構造である。しかし、そうした逆転現象は、AUKUSの持つ戦略的意義が、豪州の国防戦略のみにはとどまらない広域性を宿していることの証左でもある。
本稿では、豪州の国防戦略見直し報告書の発表を受けて、AUKUSに基づく攻撃原潜の取得が豪州の国防戦略にとってどのような意味を有するのか、それが米国の戦略目標やインド太平洋地域の安全保障とどのような関係にあるのか、そしてそれらを踏まえ、日本が果たすべき役割は何かについて論じてみたい。……