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内憂外患のアメリカが直面する紛争の時代(上)――中東から来た「ポスト・プライマシー」の試練

2023年10月27日

かつて「プライマシー」と表現された卓越した力と威信は萎み、アメリカは「ポスト・プライマシー」の時代を迎えている。緊迫度を増す中東情勢は、その現実を白日の下に晒すかもしれない。イスラエルに自制を求めつつヒズボラとイランの抑止を図る目下のアプローチが破れた場合、アメリカが軍事行動に追い込まれる恐れがある。中東、欧州、アジアでアメリカは戦略的にも政治的にも難しい対応を迫られるが、問題は中国、ロシア、北朝鮮がそれをどう解釈するかという点だ。

 地政学的にみて、アメリカは米ソ冷戦終結以来の約30年間で最も厳しい状況に置かれている。ヨーロッパでは「無期限に支援する」としたウクライナが反転攻勢に苦しみ、中東ではハマスがイスラエルを攻撃し、武力紛争が激化し拡大しかねない緊迫した状況が続く。アジアでは、中国が台湾に対して軍事的・心理的威圧をかけ、東シナ海や南シナ海でも威嚇行動を続けている。アメリカは2024年11月に大統領選挙を控え、これから国内政治上の対立が深まる時期に入るが、バイデン政権は地域紛争に対応するための支援を、過熱する政争にできるだけ晒さないようにすべく、ウクライナ向け軍事援助約614億ドル、イスラエル向け軍事援助約143億ドル、ウクライナ・イスラエル・ガザ地区向けの人道支援約100億ドル、台湾及びインド太平洋地域向けの軍事援助等約74億ドルなどを含む総額1059億ドル(約16兆円)に上る緊急予算を審議・採択するよう連邦議会に要請した。

 ところが、連邦議会では異常事態が続いている。下院多数党の共和党が、下院議長を選出できず、予算案の採決ができない。下院議長は大統領と副大統領に次ぐ要職である。政府閉鎖を回避するためのつなぎ予算の成立で民主党と協力したケヴィン・マッカーシー下院議長を解任すべく、共和党保守派の議員が提出した解任動議が民主党の賛成を得て10月3日に可決され(共和党8名、民主党208名)、下院議長が史上初めて解任動議で解任された。その後、ドナルド・トランプに近いジム・ジョーダン議員が候補となったが、本会議で3回投票しても過半数を確保できず、10月25日にようやく保守派のマイク・ジョンソン議員を選出した。

 下院議長の空席という事態は、共和党内の分断と共和党・民主党の分断というアメリカ政治の混迷を象徴している(民主党も分断と無縁ではない)。2024年11月のアメリカ大統領選に向けて、政争は一層苛烈なものとなる。2024年にトランプが再選された場合、今度は全く抑制がきかないトランプが追求する「アメリカ・ファースト」はどのようなものになるのか。ジョー・バイデンがこのまま出馬するにせよしないにせよ、2028年には「ポスト・バイデン」の民主党候補が出てくるが、その候補はバイデンの路線を踏襲するのか、それとも民主党左派の独特の世界観に基づいた対外関与を追求するのか。期待よりも不安が大きいというのが実状だろう。

 アメリカは文字通り内憂外患の時代にある。かつて「プライマシー」と表現されたその卓越した力と威信は萎み、「ポスト・プライマシー」を迎えるアメリカは、国際秩序を支える力量を失いつつあるだけでなく、自らが国際秩序の攪乱要因になるリスクをも孕んでいるかのように語られるようになった。アメリカは中東情勢にどのように対応しようとしているのか、そしてこの新たな紛争はアメリカとその世界戦略にどのような影響をもたらすのだろうか。……

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