※本稿は「週刊新潮」2026年4月16日号に掲載された記事を元に再構成したものです。また、年齢や肩書、年代表記等は当時のものです。
「日本人が幸せではない」と考え学部を創設
服部 最近、企業の間で「ウェルビーイング」という概念が重要視され、様々な問題解決の根本策として、この言葉の実現を目指そうとする気運が高まってきていると聞きます。私、今日はこのテーマを専門的に研究されている前野先生にウェルビーイングの講義を受けるつもりで来ました。最初にお伺いしたいのですが、そもそも先生はどういうところからウェルビーイングという発想になられたのでしょうか?
前野 私は、元々は理科系の学部を卒業したエンジニアでした。最初はキヤノンという会社に就職してカメラを作っていて、その後は大学に転職してロボットの研究をしていました。
服部 理工学部でしたね。
前野 企業にいますと、人の役に立つ製品を作るというのがエンジニアの仕事です。カメラの設計パラメーターの中にある、シャッタースピード0.3秒とか重さ1キログラム以内とか、そういうものはきちんと作れますが、カメラを使った人が幸せになるという保証はありません。でも、大学に行ってロボットの研究をするようになり、人と触れ合うロボットを作る中で、やはり、幸せを設計パラメーターに入れておかないと、AIもそうですが、使う人がどんどん幸せになるのか不幸せになるのか、両方あり得ます。そこで機械工学の研究の一部として幸せの研究を始めたというのが最初でした。
服部 ハードとソフト両方が合わさっている感じで二刀流ですね。そして今度は武蔵野大学に行かれて、世界初のウェルビーイング学部をお作りになった。ウェルビーイングという考えは、元々海外のものですよね。それなのに海外にはなかったのですか?
前野 今まで福祉系のウェルビーイング・アンド・ウェルフェアや健康系のウェルビーイング・アンド・ウェルネスという学部はありました。幸せという意味ではポジティブ心理学の大学院というのもありますが、心理学から工学、哲学、経営学と全部を横断する形の学部は世界に一つもなかったのです。
服部 実際に、そういう学部が必要だと思われたのはどうしてですか?