悪い上司には二つのタイプがある
筆者は2002年5月14日、当時勤務していた外務省外交史料館において西村尚芳東京地方検察庁特別捜査部検事によって逮捕された。西村氏は、筆者の取り調べと、公判の一部(04年2月)までも担当した。筆者は容疑を全面否認し、最高裁判所まで争ったが、09年6月に上告が棄却され、懲役2年6カ月(執行猶予4年)の刑が確定した。刑の確定により、国家公務員法の規定のとおり筆者は外務省職員の身分を失い、失職した。
もっとも05年3月に新潮社から『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』を上梓し、作家活動に入ったので、外務省を追われたことで生活に窮するような事態には陥らずに済んだ。
日本で起訴された場合、99.9%以上が有罪になる。特捜事件で逮捕されると、ほぼ確実に起訴される。特捜部によって事件化された人の人生は大きく変わる。
通常、特捜事件に巻き込まれた人は取調担当検事を恨むのだが、筆者の場合、そういう気持ちは全くない。『国家の罠』でも筆者は西村氏を「尊敬に値する敵」として描いた。西村氏はその後、大阪地検特捜部長、東京地検刑事部長、青森地検検事正を歴任し、高松地検検事正を最後に退官し、公証人に転じた。
西村氏が霞ヶ関公証人役場に勤めていた22年12月にわれわれは再会し、交遊が始まった。その後、平均すれば2カ月に1回、会って率直な意見交換を行っている。われわれの交遊は、生涯続くと思う。25年7月に西村氏は弁護士に転じた。われわれが話している内容を世間に伝えたら面白くなると思い、筆者が「共著を出さないか」と誘ったら、西村氏も賛成してくれた。そしてこの5月に新潮社から上梓されたのが『特捜取調室 『国家の罠』20年目の再対決』だ。24年経ったので語れるようになった鈴木宗男事件の裏事情がよくわかる。それにとどまらず、大阪地検検事正による準強制性交事件、公安警察と検察の関係などについても踏み込んだやりとりがなされている。
それと同時に面白いのが、西村氏の組織論だ。具体的には悪い上司に関する西村氏の見解が興味深い。