カルチャー

連載小説 オペレーションF[フォース] 第69回

2024年6月15日

国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】江島元総理も南郷も「都倉総理」の可能性には否定的だった。除名処分を受けたほど党内で反発が大きいだけでなく、都倉と米中両国との危険な関係が懸念されていた。

Episode6 一世一代

 

16

 市ヶ谷にある防衛省庁舎A棟まで、都倉を見送ると、磯部は、隣を歩く樋口に声をかけた。

「軽くどうだ?」

「喜んで!」

 15分で退庁の準備をして、二人はJR飯田橋駅前の飯田橋サクラテラス3階、Dippalace[ディップパレス]というインド・タイ料理の店のテラス席に陣取った。

 樋口がタイ料理好きだと聞いてのチョイスだった。磯部は、外気を感じながら食事ができ、周囲に聞き耳を立てられない場所なら、食事のジャンルにこだわりはない。

 樋口が、シンハーというタイ王室御用達のプレミアムビールの生を頼んだので、磯部も試してみることにした。

メニューを見ながら、磯部にはイメージできない料理を樋口が数品頼むと、すぐに生ビールが出てきた。

 乾杯するやいなや、樋口は見る見るうちにピルスナーグラスのビールを飲み干した。

「さすがだな、俺にはそんな芸当はできないよ」

「すみません。ちょっと今日は、喉がカラカラで、一気しちゃいました」

「波瀾万丈の1日だったからな。よく頑張ってくれたよ。いくらでも飲んでくれ」

 薄味だが、スパイスが利いたビールを一口飲んで、磯部は、樋口のためにウェイターにお代わりを頼んだ。

「今日は、歴史的1日として刻まれるでしょうか」

「北朝鮮のミサイル迎撃記念日としてか」

「それ以上に、防衛大臣が、攻撃されたら躊躇わず反撃すると公言し、実行した日として」

 それは、特別なことなのだろうか。

「磯部さんは、ご不満ですか」

「不満ではないが、迎撃は事件ではない。我が国を攻撃するものは、すべて排除して当然だからな」

「おっしゃるとおりですが、昨年、新潟であんなきわどい事態が起きて以来、次の危機が迫ったら、どうするのかという懸念が広がっていました。だとすれば、今日の迎撃成功は、記念すべきことだと思いませんか」

 つまり、余りにも低かった日本の防衛意識が、ようやく当たり前のレベルになったのを祝うべきだということか。

「だが、都倉大臣は危うい」

「それは否定しません。私も側にいてヒヤヒヤしています」

 そう聞いてホッとした。元々、都倉と親密な樋口は、大臣の行為をすべて手放しで支持しているのではと考えていた。……

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