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トランプ大統領の発言とアクション(7月31日~8月7日):関税協議「合意文書なし」で甦る1991年と2019年の苦い記憶

2025年8月9日


<span>トランプ大統領の発言とアクション(7月31日~8月7日):関税協議「合意文書なし」で甦る1991年と2019年の苦い記憶</span>

トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した1週間分の発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。▼大統領令の修正時期は「米国側の内部の事務処理」▼「歴史は韻を踏む」のか、1991年と2019年のケース▼ブラジル、インド、スイスは「敗者」▼実は失態続きだった米労働統計局▼労働統計局長解任はむしろ「英断」との指摘も

 

大統領令の修正時期は「米国側の内部の事務処理」

 英語でstackとは、積み重ねる、山積みするとの意味がある。赤沢亮正経済再生担当相は7月22日、トランプ政権と関税協議で合意した直後に、会見で「ノースタッキング(上乗せなし)だ」と明言した。関税率15%以上の品目には、相互関税の15%が上乗せされないという意味だ。また、15%以下の関税の場合は、15%が適用されるなど、「特例措置」が割り当てられると説明していた。

 しかし、ドナルド・トランプ大統領が7月31日に相互関税見直しをめぐって署名した大統領令のほか、米国国土安全保障省の税関・国境取締局 (CBP)が8月4日に公表したシート、ホワイトハウスが8月6日に官報に掲載した内容を踏まえれば、「特例措置」に該当するのは、欧州連合(EU)のみ。ここに記されなかった日本は、新たな相互関税が発動する8月7日午前0時1分から、15%以下並びに15%以上の品目に、追加で15%の関税が課されることになった。

 例えば、牛肉の場合は4月まで(基本関税10%上乗せ前)の税率は26.4%で、日本政府の説明では15%の上乗せなしで26.4%のままとなる予定だった。しかし、米国の資料に基づけば、15%が追加され、41.4%に引き上げられる。一方で、関税が15%以下のマヨネーズは、既存の6.4%に15%上乗せされ、21.4%に。関税ゼロのホタテは、15%となる。

【7月31日付の米大統領令】
出所:ホワイトハウス 拡大画像表示
【CBPのシート、ホワイトハウスによる官報掲載】
【日本の説明と米国側の資料に基づく関税率】
出所:各種報道よりストリート・インサイツ作成 拡大画像表示

 赤沢氏は8月7日、ハワード・ラトニック商務長官やスコット・ベッセント財務長官など米閣僚との会談後に、日本も特例措置の対象となり、過大徴収した関税は8月7日に遡り払い戻すとの説明が米国からあったと明言した。自動車関税の25%から15%への引き下げも含め、適時、大統領令で修正が発出されるという。大統領令の修正措置の時期については、「米国側の内部の事務処理」と述べつつ、「半年や1年ということは当然ない」との認識を示した。

 今回の訪米で、赤沢氏は米側の交渉責任者であるベッセント氏と会談しており、特例措置を巡る齟齬は解決に向けて動き出したと言えそうだ。ただし、合意文書が作成されなかったことが、このような問題を招いたのではないかとの疑問は残る。

 トランプ政権は、関税協議で合意したはずの各国それぞれと、合意後にも摩擦を起こしている。EUとは相互関税をゼロとする品目で対立し、最初に合意が成立した英国とは、鉄鋼・アルミ関税のゼロへの引き下げで揉めている。7月5日付の本コラムで取り上げたように、英国に工場を置くインド鉄鋼大手タタ・スティールがインドやオランダの系列工場から部材を取り寄せるなど、系列会社間の供給体制が交渉の障壁となっている。ベトナムとの関税協議の合意内容も、同国から具体的な情報は公表されていない。

 各国ともこうした摩擦が大なり小なり続いているとはいえ、合意文書を作成する予定のEUとは、7月31日の相互関税見直しに関する米大統領令で特例措置が認められている事実は無視できない。

「歴史は韻を踏む」のか、1991年と2019年のケース

「野球で言うなら、日本から5500億ドルの契約金ボーナスをもらったようなものだ」――トランプ氏は、8月5日付のCNBCインタビューで豪語した。EUからの対米投資6000億ドルについても「ギフトであって融資ではない」と明言。EUについては「関税を買ったんだ……一部の国がEUへの関税が15%になった理由を尋ねてきたが、6000億ドルを付与してくれたからと答えたよ」と意気揚々と語った。日本やEUからの投資資金をめぐっては、米国の望み通り使うことが可能と言い切った。……

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