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三船敏郎とは異質、岡本喜八『斬る』で浮き上がる「仲代達矢」の誘引

2026年5月23日


<span>三船敏郎とは異質、岡本喜八『斬る』で浮き上がる「仲代達矢」の誘引</span>
1932年東京生まれ。俳優を育成する私塾「無名塾」を、亡き妻・宮崎恭子(女優・脚本家・演出家)と共に1975年に設立。次代を担う俳優を数多く育てた。

週末の真夜中、オールナイトの映画館は不思議な空間だ。飲み屋街に迷い込んだように、誰もが思い思いの見方で映画を楽しんでいる。その観客は夜が更けると、本当の映画評を語り出し、共に見る人はつい本音が口に出る。朝を迎えて映画館を出る頃には別の人間になっているような感覚がある。そんな感覚を味わえるような、月永理絵さんの映画評を。第1回は「仲代達矢」の誘引について考えてみる。

成瀬映画における仲代達矢の不思議な立ち位置

 仲代達矢という名前を聞いて、人はまずどの映画を思い出すだろう。1950年代から半世紀以上にわたり活躍した名優で、一緒に仕事をした監督の数も、出演した映画の数も、とてもじゃないけれど数えきれない。スカーフをたなびかせる気障なヤクザ・卯之助を演じた、黒澤明監督『用心棒』(1961)や、切腹を申し出る謎の浪人役を鬼気迫る演技で見せた、小林正樹監督『切腹』(1962)。同じ小林監督の三部作から成る超大作『人間の條件』(1959〜61)をあげる人も多いだろう。

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1958年、宮崎恭子と仲代達矢の結婚式にて。

 個人的には、成瀬巳喜男監督の映画に出演した仲代達矢が忘れられない。その多くは主演ではなく、森雅之や上原謙など、年上の男優たちの二番手に位置する役だった。特に目立つのは、主演の女優を陰ながら助ける地味だが誠実な男の役。 『女が階段を上る時』(1960)で演じた銀座のバーのマネージャーは、高峰秀子演じるバーのママに惚れながら、気持ちをひた隠し、同僚として彼女を支えようとする男だった。一途に片思いをし、濡れたような瞳で高峰秀子を見つめる姿は子犬のようで胸がときめいた。

 だが可愛らしい彼は、あるとき急変する。亡き夫への愛を貫き、店の客から次々口説かれてもなびかなかったママが客のひとりと関係を持った途端、彼はそんな女だとは思わなかったと激しい怒りを彼女にぶつける。勝手に女を偶像化し、その理想を裏切られると今度は彼女を軽蔑し自分のものにしようと迫る。アイドルの恋愛が発覚し、突然アンチに変わる熱狂的なファンのように、一方的な愛情は容易く憎しみに変わってしまう。その様子が妙に恐ろしく、忘れられない。

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